屋久島の山仕事に精通し、「屋久島の山守」として知られた故高田久夫さんの1990年代の言葉や活動を記録した映像が、KKB鹿児島放送(鹿児島市)から鹿児島県屋久島町に寄託された。「貴重で歴史的な資料」として同町の屋久杉自然館で保存され、活用される。

 寄託されたのは、KKBが開局15年を記念して1998年に放送した番組「奇蹟(きせき)の屋久島」の映像素材計約8時間分。今月15日に町役場であった寄託式で、KKBの軸屋忍社長が荒木耕治町長に目録を手渡した。

 「奇蹟の屋久島」は、四季の自然の美しさや屋久杉を中心とした島の歴史を1年にわたって取材した番組。主人公の高田さんは、高度成長期に伐採の前線基地「小杉谷」で生活するなど山仕事に長年従事した。早くから屋久杉の保存の声をあげ、土埋木(どまいぼく)とよばれる切り株や倒木の搬出も手がけた。「最後の山師」とも「森の語り部」とも呼ばれ、2013年に亡くなった。

 番組では、高田さんの半生をたどりながら、森への思いや森とともに生きる知恵などの言葉を引き出している。リポーターとして森を案内されたオカリナ奏者の宗次郎さんは「誇りを持って森に暮らしていた人という印象。森のことは自分が一番よく知っているというプライドを持っていると感じた」と語っている。

 KKBは昨年、前京都大総長の山極寿一さんを招いて屋久島の世界自然遺産登録30年記念のシンポジウムを開くなど、屋久島の魅力の発信に力を入れている。屋久島町によると、町には屋久杉を伐採していた時代の記録はあるが、土埋木の搬出など近年の映像はほとんどなく、今回の映像が空白を埋める形になった。

 寄託式で軸屋社長は「住民の方はもちろん、登山客や観光客にもぜひ見ていただきたい。これからも地元テレビ局として屋久島の自然環境を守っていけるよう力を尽くしたい」と話した。

 荒木町長は「古くからの山岳信仰や神木としてあがめられる屋久杉の歴史を振り返ることができる。自然と共に生きてきた私たちが、今後どう自然に向き合っていくかを考えさせてくれる。屋久杉自然館や教育現場で活用したい」と話した。まずは自然館でダイジェスト映像を一般公開したいという。(安田朋起)