自民党の派閥の裏金問題をきっかけにした、衆院長崎3区補選が28日に投開票される。海外出身の識者の目には、今回の事態がどう映るのか。東欧の旧チェコスロバキア出身、長崎大学多文化社会学部のコンペル・ラドミール准教授(比較政治学)に聞いた。

 ――今回の補選は、衆院議員だった谷川弥一氏(82)=自民を離党=が、裏金事件で辞職したことに伴い実施されます。

 異例な選挙であることは間違いない。裏金問題のように水面下で行われ、統制できなかったものが表に出てきた。古い政治から脱却するための選挙となる。旧来の日本の政治のうみを出すべきだと思う。

 自民党は今回の補選に候補者を立てない。次の総選挙で、長崎の小選挙区は一つ減る。自民党の戦略が裏にあるのだろう。人気のない政治家がやめると、自民党の支持率が戻る例がある。谷川弥一氏は早々に辞職した。自民党はもう次の選挙を見据えているのだろう。

 住民にとって選択肢が減るのは確実だ。ただ、小選挙区制度における民主主義とは、そういうもの。政党は全国の枠組みで考えるが、その選挙区の住民にとっては選択肢がない。

 ――投票率はどうなるでしょうか?

 投票率が急に上がることはないと思う。自民支持層が投票に行かないかもしれず、さらに投票率は低くなり、盛り上がりに欠けるだろう。

 一方で最近、学生に聞いてみたが、調査対象だった大学生約100人の6割弱は、今回の選挙で投票権があれば参加したいと言っている。自民党の候補がいないから投票する意味はないとは考えていない。

 日本の選挙の特徴の一つは、投票用紙に候補者や政党名を書き込まなければならないこと。記名式投票は世界でも少ない方だろう。多くの国では、投票用紙に印刷された候補者の中から、支持する候補にチェックを入れる方式を採用している。「この名前を書いた」という記憶が、有権者一人ひとりに刻まれる。

 ――それぞれの国ごとに、選挙制度に違いがあるのですね。

 日本の公職選挙法はかなり厳格だ。欠員が出た場合、制度上は補欠選挙を行わざるをえない。法律で4月と10月に補選を行うようになっている。

 チェコでは、上院なら補選はあるが、あまり話題にならない。下院は比例代表制のため普段は補選をしない。ほかのヨーロッパの国々でも比例代表制が多く採用され、日本の比例区での繰り上げ補充のように、補選を必要としていない。

 政治システムに完全無欠はない。完璧ではないなかで、システムをどう住民に近づけて上手に運用していくか、というのが民主主義だろう。

 次の選挙で再編される選挙区であっても、市民の意思をこの時点で確認しておくことも重要だ。その結果は、今後、自民党総裁選や総選挙を行う過程で参照されることになる。

 批判の高まりは、無党派層に政治参加を促す。裏金もそうだが、国民の怒りに触れるような問題に対し、(その怒りが高まるなら)投票率は上がる。

 日本の選挙を外から見たとき、問題点の一つは、外国人をどうやって受け入れていくかという点だ。外国人の立場で言うなら、参政権のハードルを高くする必要はないと思っている。例えば、長年日本に住み、家族がいて、ここで仕事をしているならば、政治の門戸を開いてもいい。(聞き手・小川崇)

 〈コンペル・ラドミール長崎大准教授〉1976年、旧チェコスロバキアで生まれる。99年に来日し、横浜国立大学大学院修了。2012年から長崎大学准教授。専門は日本政治外交史、比較政治学、沖縄の近現代史。著作に「長い終戦 戦後初期の沖縄分離をめぐる行政過程」(成文社、2020年)。