5月13〜14日に伝統のフランス・ポー市街地で開催された2023年TCRヨーロッパ・シリーズ第2戦は、プラクティスから雨や雹混じりと目まぐるしく変化する天候にも翻弄されつつ、開幕直前でシリーズ復帰のシートを確保したドゥサン・ボルコヴィッチ(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)がレース1を制覇。続くリバースグリッドのレース2は、選手権を見据えた戦略的頭脳プレーを披露したトム・コロネル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が、早くも今季2勝目を手にしている。

 本来、地元のフォーミュラ・シリーズとの共催や、今は亡き電動ツーリングカー選手権“FIA ETCR”こと『eツーリングカー・ワールドカップ』とのジョイント開催が予定されていたポー市街地の週末は、もともと“持続可能性”をイベント開催テーマに掲げていた地元自治体やオーガナイザーの意向を受け、バイオ生成燃料の即時使用が不可となったことでフォーミュラのレースが開催中止に。

 TCRシリーズ自体もまだバイオ燃料の適合には時間が掛かるとしつつ、なんとか従来のハイオク燃料でレース開催自体は許可されたが、タイムスケジュールに大きな穴が空いたことで、予定されていた土曜ナイトレースではなくオーソドックスなデイタイムでの勝負となった。

 こうした時間変更は金曜フリープラクティスから混沌を生み出し、本来より約2時間遅れとなったFP1では、レインシャワーに加えて雹まで降る市街地コースとしては一層厳しいコンディションに。

 ここで速さを見せたのは「チームのセミウエットセットが最高で、魔法のように自信に満ちたグリップが得られた」という19歳で、新鋭のコービー・パウエル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が最速タイムを記録。今季はラリークロスから転向し、開幕戦でもTCRワールドツアーのメンバーと遜色ない速さを披露していた才能の片鱗を見せつける。

 一方、午後のFP2は日照にも恵まれドライアップの方向となり、ここで大ベテランのコロネルがトップタイムを計時。自身、ミックスウェザーの代名詞となったお得意のタイヤ戦略も駆使し「最初は前スリックで後ろがレイン。これでターン2はステア操作要らず、自動的に曲がるんだ(笑)。そして今度はフロントの中古をリヤに履き、新品のスリックをフロントへ。これで双方のセットともに温存でき、明日以降の急変にも対応できる」と語り、予報でも雨と晴れが入り乱れる予選日に備えた。

■予選ではコロネルが“戦略的”リバースポールを獲得
 明けた土曜は大方の希望どおりにドライでの勝負が実現すると、ここで躍動したのはこちらもルーキーのヴィクトル・アンダーソン(MA:GP/リンク&コー03 TCR)で、シリーズわずか2戦目の19歳は、父マティアスが昨季までSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権でドライブしていた機材の性能を存分に引き出し、世界的に有名なフランスのストリートサーキットでポールポジションを獲得した。

「この週末はドライでの走行時間が少なくずっと不安だったけど、乾いていた路面でいろいろ試してみたら、かなりうまくいった」と、初挑戦の市街地を攻略したアンダーソン。「昨日は1日中ひどい天気だったから(予選では)毎分勉強して、最終的には最大限の力を発揮してポールを獲得できた。毎分勉強して、ドライブ自体はとても気持ち良かったよ」と手応えを語ったアンダーソン。

「でも、少し異なる戦略を持ったトム(コロネル)が、明日のリバースグリッドポールを獲得したのも理解している。ここでの追い抜きのが難しいのは分かっているが、同時に間違いも起こりやすい。明日はスタートが勝負だね」

 そう語ったアンダーソンに対し、当のコロネルはシーズンに向けたより大きな戦略の一環として、リバースポールを狙った意図を明かした。

「もちろん、追い抜きが難しい市街地で最前列を確実に獲ることも重要だが、何よりも(次戦)スパ・フランコルシャンに向けてウエイトを減らす必要がある。厳しい上り坂と長いコースでは、何よりもそれが重要だ」と続けたコロネル。

「レース2でのポイント獲得に優位なことに加え、予選ポイント(上位7台に付与)を回避してウエイトを免れることができる。予選ポイントは譲るけれど、それはそれで構わない。レースでは簡単に返してもらえるんだ」

 迎えた日曜のレース1は、スタートが重要だと語っていたアンダーソンのリンク&コー03 TCRが、まさかのバッドスタートで12番手まで後退すると、そのままオープニングラップでピットへ。シグナルグリーンのラインオフ時にドライブシャフトが故障したことが判明し、無念のリタイアを喫してしまう。

 これで首位を譲り受けたのが2番手スタートのボルコヴィッチで、レース中は地元ワイルドカード枠ドライバーのラップダウン処理に「心底、神経を使った」と語りつつ、パウエルやTCR UK出身のアイザック・スミス(ボルケーノ・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)らを抑え、シリーズ通算4勝目を挙げた。

■レース2は選手権を見据えるコロネルが今季2勝目
「主な目標は良いスタートだったが、まずまずだった」と安堵の声を漏らしたボルコヴィッチ。「これはエラントラNでの事前テストなしでの2戦目で、チームは本当に良い仕事をしてくれた。開幕で初めてシートに座ったときは新鮮で、今でもクルマについて学ばなければならないことがいくつかあるが、こんなに難しいコースで勝てたことは本当にうれしい」

「僕自身にとっても、チームにとっても、支援者たちにとっても、そしてセルビアにとっても本当に幸せだ。僕らはこれを必要としていた」と、今月2度の銃乱射事件と、それを受けてのセルビア国民によるデモ行進を念頭に、祖国に勝利を捧げたボルコヴィッチ。

 続いて開催された予選トップ10リバースのレース2は、コロネル以下の上位7台がすべてアウディという状況のなか、コムトゥユーとボルケーノの陣営はグリッドまでフロントに中古、リヤに新品で熱入れを進め、グリッド上で前後をローテーションしてシグナルを待つ。

 直後のターン1に向け安定したブレーキングパワーを得たコロネルは、ポールシッターの優位を活用して逃げる展開に。途中、セーフティカー介入でマージンが消える場面もありつつ、混乱の最中に這い上がってきたボルコヴィッチや、開幕戦後は選手権同ポイントで並んでいた僚友ジョン・フィリピらを抑え、コロネルが狙いどおりのポイントリードを築く今季2勝目を飾った。

「背後に迫られたときも、大きなプレッシャーは感じなかった」と、あくまで選手権を見据えるコロネル。「レース中盤にはチームメイトがタイヤを壊し、こちらもアンダーが出始めたから『ああ、コントロールしなきゃ』と思った。そこに集中していたし、最終セクターでは自分の方が速かったから、最終コーナーの出口だけに集中していたんだ」と続けたコロネル。

 これで僚友フィリピに13点差としたシリーズリーダーを筆頭に、続くTCRヨーロッパ ・シリーズ第3戦は5月27〜28日のベルギーはスパ・フランコルシャンにて、ふたたびTCRワールドツアーの一行と勝負を繰り広げる。