4月20日、ENEOSスーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONEを運営するスーパー耐久機構(S.T.O)は、第1戦SUGOスーパー耐久4時間レースが開催されている宮城県のスポーツランドSUGOで記者会見を行い、S.T.Oから一般社団法人『スーパー耐久未来機構(STMO)』に組織変更すると発表した。ST-QクラスにROOKIE Racingからレーシングドライバー『モリゾウ』が理事長に就任している。

 スーパー耐久シリーズは、1991年にN1耐久として生まれた市販量産車をベースとしたシリーズ。プロのレーシングドライバーとアマチュアドライバーが協力し合いながら戦うレースとして、他シリーズとは異なるスタンスで多くのエントラントに愛され、ファンも集めてきた。

 そんなスーパー耐久シリーズは、これまでケイツープラネット株式会社内のスーパー耐久機構がレースを運営してきたが、近年は開発車両が参加できるST-Qクラスを中心に多くの自動車メーカーの参加も増え、シリーズの姿そのものが少しずつ変化していた。

 そんななか迎えた今季開幕戦のSUGOだが、グループ2の公式予選が終わったばかりのスポーツランドSUGOで、S.T.Oの桑山晴美事務局長、そしてチームオーナーとして、ドライバーとして、またある時は豊田章男トヨタ自動車会長としてスーパー耐久に取り組んでいるモリゾウが出席し、記者会見が行われた。冒頭、桑山事務局長は、2013年に夫であった初代事務局長で、N1耐久を生んだ故桑山充事務局長が亡くなり、レース運営を引き継いだ苦労を語った。

「私なりに行き着いたスーパー耐久で必要なものは正しい規則に整えること、ブランドを作ることのふたつでした。その課題をひとつひとつ潰していったのが、今に至るスーパー耐久の11年間だったと思います。また兼ねてから、自動車メーカーの方にお目にかかったとき、『スーパー耐久をどんどん開発の場に使って下さい』とお伝えして参りました。これは生前、夫が言っていたこのレースの意義でもあります」と桑山事務局長。

 そんな“メーカーの方”のひとりがモリゾウだったという。その後、メーカーの参画も増え、ROOKIE Racingが投入した水素エンジンのORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptなど、カーボンニュートラルへの挑戦、新たな未来への挑戦も行われてきた。

「おかげさまでスーパー耐久は、いまとても良い状態にあると思っています。チームの皆さま、ご協賛企業の皆さまにも支えられ、参加型レースでありながら応援して下さるファンの方も増えてきています。そしてST-Qクラスの盛り上がりで単に楽しいだけのレースではなく、自動車産業の一員として果たす役割も見えてきています」

 しかし、シリーズの拡大、メーカーの参画にともない「このレースの未来を考えたとき、次の段階を考えていかないといけない。その時に私一個人の小さな会社で運営していく体制でいいのか」と桑山事務局長はここ数年悩んでいたという。スーパー耐久シリーズが30年かけて積み重ねた歴史とレースを守り、関係する人たちがレースを通じて未来を感じるにはどうしたら良いのか……と考えたとき、桑山事務局長の頭に浮かんだ人物は「モリゾウさんしかいませんでした」という。

「スーパー耐久はとても純粋でまっすぐなレースです。このレースを歪まずにまっすぐ成長発展させていくために、ご相談できる方はただひとりしかいませんでした」

■新しい未来を目指すための組織変更
 桑山事務局長の相談をうけたモリゾウは「どなたか他の方にこのことは相談されましたか?」と返答し、「みんなにとって良いような形になるように考えてみます」と返答。さまざまな検討を重ねた結果、『スーパー耐久未来機構(STMO)』と名付けられた新たな組織の『理事長』という役職に就くことになった。

「桑山さんが意を決して相談されてきましたが、それであればとお答えさせていただきました。その時私が思ったのは、私ひとりであれば気を回さずに動きやすいのではないかということです」とモリゾウ。

「桑山さんは夫が立ち上げたスーパー耐久を引き継ぎ、なんとかやって来られました。引き続き技術を磨く場として、社会課題解決に貢献できる場にしていきたい。もちろんスーパー耐久を楽しんできたエントラントにももっと楽しんでいただく現場にしたい。でも体制を強化しないと難しい。そんな本音をお聞きし、そのお悩みにどうお答えできるのか、社内で相談してみました」

 当初、「OEM連合で引き受けてはどうか」ということも考えたというが、「この時に思いましたのは、モーターショーとオートサロンの違いです。スーパー耐久はどちらかというとオートサロンで、OEMが前面に出るのではなく、業界550万人みんなで作っていくということです」という。

「クルマ好き、運転好き。そしてチューナーの方々、メカやエンジニアなど多様な方々が参加できる枠組みを残していくことがいちばん大切なんじゃないかと考えました」

 この考え方に賛同する各社からの協力を得て構築されたのが、新たなスーパー耐久未来機構。近年STOが取り組んできたアジアへの広がりも意識したりと、「みんなで新しい未来を目指していく」ということで新たな名称がつけられた。略称の『STMO』の『M』には、創始者である桑山充氏へのリスペクトも込められているという。

 新たなSTMOでは、モリゾウ理事長、桑山副理事長、加藤俊行専務理事という体制が構築された。現場では桑山副理事長、加藤専務理事がメインで「旅館で言えば、私が総支配人で、桑山さんが女将、加藤さんが支配人という感じでしょうか(笑)。旅館では総支配人はあまり出てきませんよね。ふたりに今まで以上に対応いただき、私はいろんな形でバックアップできるところはしたいと思っています」とモリゾウは分かりやすい例えを交え説明した。

「そういう意味では、この体制にしたからといって、すぐに未来が語れるということでもないと思います。今年、スーパー耐久のシーズンが進んでいくたびに、どういう風に変わっていくかをご覧いただきたいと思っています」

 一般社団法人スーパー耐久未来機構は5月末までに事業承継を完了させ、6月から新体制による運営に切り替えることを予定しているという。シリーズ運営は現STOの体制を引き継いでいく。モリゾウというモータースポーツ、シリーズへの大きな愛情を注ぐ新たな理事長を得て歩み出すことになったスーパー耐久未来機構。この先、どういったスーパー耐久の未来が見せてもらえるのか、楽しみなところだろう。

スーパー耐久未来機構 概要
名称:一般社団法人スーパー耐久未来機構 (Super Taikyu MIRAI Organization(STMO))
事業目的・事業内容:
モータースポーツの健全な育成・発展・振興を図るため自ら企画・運営するイベントや派生する事業を行い、もってモータースポーツ、自動車産業、モビリティ社会に寄与することを目的とする

(1)モータースポーツ、自動車、モビリティに関する事業
(2)モータースポーツ、自動車、モビリティを通じた社会貢献、国際貢献に関する事業
(3)その他当法人の目的を達成するために必要な事業
(4)前各号に附帯関連する事業

設立(承継)時期:2024年5月31日
社員数:14名
理事:豊田章男(代表)、桑山晴美、加藤俊行
監事:阿部修平
S耐運営体制:現STOのメンバーにて運営
拠出者(敬称略):
ENEOS株式会社、株式会社ブリヂストン、三井住友海上火災保険株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、小倉クラッチ株式会社、株式会社SUBARU、マツダ株式会社、トヨタ自動車株式会社、株式会社デンソー、株式会社アイシン、豊田章男、阿部修平、桑山晴美、加藤俊行