5月中旬、2023/2024ABB FIAフォーミュラE世界選手権に参戦するニック・キャシディ(ジャガーTCSレーシング)とアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム)が、メディア向けのラウンドテーブルに参加し、今季シーズン10を振り返ると同時に、チャンピオンシップへの展望を述べた。

 まず行われたのは、日本の全日本スーパーフォーミュラ選手権やスーパーGTなどでチャンピオン獲得の活躍を見せたキャシディの回。2020/2021年シーズン7から電動フォーミュラレースへの挑戦を開始したキャシディは、参戦以来徐々に成績を上げ、4年目となる今季シーズン10では、現在ドライバーズランキング首位に立っている。

 キャシディは、5月11日の第9戦ベルリンE-Prixで一時21番手まで順位を落としながらも、セーフティカーをうまく活用して大逆転優勝を飾った。その一戦を「実際にはそんなに簡単ではなかった」と振り返りつつ「エネルギー残量で有利だった」と、自身が得意とするエネルギーマネージメントで優勝することができたと語る。

 この第9戦の優勝に加え、翌日の第10戦でも2位表彰台とファステストラップを獲得したキャシディは、140ポイントでドライバーズランキングトップに立った。昨シーズンは惜しくもランキング2位となっているキャシディが目指すのはもちろんチャンピオン。今季の勢力図と上海、ポートランド、ロンドンの6レースに向けて、慎重な姿勢を崩さない。

「上海とポートランドは良い結果を残すことができると思うけど、4レースともタフな戦いになりそうだね。その後のロンドンを加えると、シーズンが終わるまで、まだ6レースある。僕としてはいつものように一戦一戦しっかりと走ることに集中したい」

 次戦の上海は4年ぶりの開催ということに加え、今年はF1が開催される上海インターナショナルサーキットに舞台が移される。サーキットレイアウトはF1でおなじみの長いバックストレートを使用せず、ターン9からホームストレートに戻るショートレイアウト。キャシディは「どんな展開になるかはまだ分からない」と語り、シミュレーターを使用してコースをチェックしたいと続けた。

 戦略については「常に前進と向上を行い、ブレーキやトラクション、メカのバランス感覚を高め、パフォーマンスとマシン開発の両面を進化させる必要がある。でも、それをすることができれば、優勝候補になることはできるだろうね」と自信があるようだ。

 また、今季から加入したジャガーTCSレーシングの“ワークスチーム”とも「常に僕を関わらせてくれている」と良い関係が築けている様子。最後にキャシディはチャンピオン獲得に向けての抱負を語った。

「チームとしてはこの先の6レースが大事だ。でも、フォーミュラEはリスクを負わないと取り残されることが多いから、積極的に攻め続けたい。そして決断力を高め、各レースで得た学びを次に活かしたい」

「ここまでの獲得ポイントは多いから、この勢いを保ったままロンドンの最終大会にいくことができれば、チャンピオンになれると思う」

■FEに加えWEC復帰を望むダ・コスタ。第6戦の失格騒動は「シーズンの汚点」
 タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームで2年目を迎えたダ・コスタ。シーズン序盤はポイントを獲得することができなかったが、東京E-Prixの4位をきっかけに成績を上げ、第10戦ではポルシェの母国ドイツで優勝を飾った。

 しかし、ラウンドテーブルに登場したダ・コスタは「まだクルマのバランスに満足できていない」と苦戦していることを明かす。

「予選でトップ10に入るため、いくつかのステップを踏んできたけど、最速のクルマであるにはまだ少し足りていない。快適なクルマとは感じていないし、バランスも自分が本当に好むものではないんだ」

「逆にこのマシンを本当にうまく運転しているパスカル(ウェーレイン)には賞賛を送りたいね。今は理想的ではないけれど、チームはサポートしてくれているから、今後もその部分に焦点を当てて解決していきたい」

 また、ダ・コスタといえば第6戦ミサノE-Prixでトップチェッカーを受けながら、レース後の車検で『マシンのスロットル・ダンパー・スプリングが規定とは異なる』という理由で失格となり、一時はチームが不服申し立てを行う騒動に発展した。

 ダ・コスタは「正直レースが終わった後に失格と聞いて、いい気分ではなかった。失格が発表されたとき、他チームの代表やエンジニア、ドライバーから、不公平だというメッセージをもらった」と当時を振り返り、自身の考えを述べる。

「FIAの裁判所に行って、すべてを訴えたけど、部屋に入って最初の30分で却下されてしまった。仕方ないと思うけど、この件は今年のフォーミュラEシーズンにおいて少し汚点となっているね」

「この件はチームのミスなので、ペナルティは何らかのかたちで科されるべきだけど、FIAが『パフォーマンスの利点はなかった』と明言した場合は、レースの結果を変更すべきではないと思う。そのほうが観戦しているファンにとっても、理にかなっている」

「たとえ今すぐにこの勝利やポイントが戻らないと言われても、将来的にこれが(レース結果が変更されないペナルティ)標準になるのであれば、僕はそれに賛成し、同意したいね。なぜなら、僕は“スポーツ”のために最善を尽くしたいからだ」

 ここまで10戦を終えたフォーミュラEシーズン10。ポルシェチームはウェーレインが124ポイントでキャシディに次ぐランキング2位に対し、ダ・コスタは59ポイントのランキング8位と差をつけられている。

「クルマをより速くする方法を理解するための努力は止まらないし、今はその挑戦を楽しんでいるよ」と語るダ・コスタ。一方で「個人的にはWEC(世界耐久選手権)へ復帰したいと思っている」と、将来的な他カテゴリー参戦の意欲も覗かせる。

「レッドブルのジュニアドライバー時代に、ボスである(ヘルムート)マルコに『君の肩書きは何だい?』と聞かれて『レーシングドライバー』と答えたんだ。するとマルコに『そのとおり。ドライバーなら毎週レースをしなくてはならない』と言われたことがある」

「僕は2014年からダブル、もしくはトリプルプログラムをしていて、フォーミュラE、DTM(ドイツツーリングカー選手権)、F1リザーブドライバーとしてレースをしていた」

「しんどさを感じるときもあるけれど、ふたつの世界トップレースを走っているレーサーは少なく、最高のドライバーやチーム、エンジニアがいる環境には、とても恵まれていると感じている。またレース活動は、家族やスポンサーなどのサポートがあって実現できているから、他のカテゴリーも走りたいと思っているよ」