慶大は劇的なサヨナラ本塁打



慶大は1年生の代打・渡辺がリーグ戦初打席でサヨナラ本塁打。生還すると、歓喜の輪に吸い込まれていった[写真=矢野寿明]

【4月29日】東京六大学リーグ戦(神宮)
慶大2x-1法大
(延長12回、慶大2勝1敗)
早大5-0明大
(延長11回、早大2勝1敗)

 東京六大学リーグ戦は「2勝先勝の勝ち点制」で、天皇杯が争われる。1勝1敗で迎えた3回戦こそが「対抗戦の真髄」と言える。土曜日からの3連戦。心・技・体ともタフでないと「2勝目」を取ることはできない。

 第3週は、前季シーズンの上位4校が登場するカードが組まれた。慶大-法大、明大-早大とも3回戦へともつれ込んだ。

 しかも、2試合とも9回では決着がつかず、延長戦へ。連盟規定により延長は12回まで(1試合の場合は15回まで)。学校と学校のプライドのぶつかり合い。1球、1プレーをめぐる攻防は、見ごたえ十分であった。

 第1試合。0対1の9回表、法大が一死三塁から主将・吉安遼哉(4年・大阪桐蔭高)の左前打で、土壇場で追いつく。1対1のまま12回裏へ。引き分けもちらつく中、一死走者なしから、慶大の代打・渡辺憩(1年・慶應義塾高)が劇的なサヨナラ本塁打を放った。

 両監督は振り返った。

「(最後に)渡辺が打ったのは素晴らしいですが、皆が守って、つないだな、と……。まさか、本塁打とは……。法政の投手陣が気迫で向かってきたので、跳ね返す力を、若い力に託した」(慶大・堀井哲也監督)

「どっちに転んでもおかしくない展開でした。野球の醍醐味が詰まった試合。勝負どころで1点を守り切れるか。1点を取れるか……。明確な課題が出た。こういうゲームを経験することが力になる」(法大・大島公一監督)

「選手たちの勝ちたい気持ちが伝わった」



早大の主将・印出は一塁ファウルグラウンドに打ち上がった飛球を好捕。体を張ったプレーに「一球入魂」への思いを体現した[写真=矢野寿明]

 第2試合は早大、明大とも無得点のまま9回を終え、延長に入った。投手起用は対照的だった。明大は小刻みに5人を起用した一方で、早大は先発の伊藤樹(3年・仙台育英高)が、9回4安打無失点と好投を続けていた。

 試合が動いたのは、11回表だった。8回から救援した浅利太門(4年・興國高)が先頭打者に四球。次打者のバント処理で一塁悪送球。ミスで無死二、三塁とピンチを広げ、尾瀬雄大(3年・帝京高)の右前適時打で、ついに均衡を破られた。続く山縣秀(4年・早大学院)の中前適時打で加点され、ここで浅利は降板。早大の勢いは止まらず、一気に5得点のビッグイニングとなった。早大の先発・伊藤樹は6安打でリーグ初完封を飾った。

 明大は1回戦を落としてから2回戦で雪辱。前日は今春から採用しているグレーのビジターユニフォームを着用し、1勝1敗のタイとした。3回戦は一塁側で、本来ならばアイボリーのユニフォームを使用するが、田中武宏監督は2回戦からの流れを大事にし、グレーを着た。しかし、願いは通じなかった。

「四球とエラーですもんね……。同じことをやっている。それも、4年生がやっていては……。(早稲田の)伊藤君は1戦目よりもコントロールが良かった。3年生ですけど技術と気持ちが備わっている。ウチにそういう投手がいないのは、残念」(明大・田中監督)

 コロナ禍を経て2022年春に復活した勝ち点制に限れば、早大は19年秋以来、明大から勝ち点(2勝先勝)となった(各カード2試合で、10試合のポイント制だった21年秋に早大は明大から2勝を挙げている)。早大・小宮山監督は「(明治は)難敵の位置づけ。選手たちの勝ちたい気持ちが伝わった。他の大学よりも、明治に勝ちたい、と。勝ち点を取れて良かったです」と喜びを語った。

「第1試合を見ながら『良い試合だな〜』と。負ければ一歩、後退するゲーム。ウチもまさか、こういう展開になるとは……。試合前から主将の印出太一(4年・中京大中京高)は『意地と意地のぶつかり合いだ!!』と鼓舞していましたが、本当に勝てて良かった」(小宮山監督)


早大は11回表に明大から一挙5得点。右翼線への2点適時打を放った吉納は、二塁ベース付近で目頭を押さえた。4年生として、相当な重圧だったのである[写真=矢野寿明]

 印出は9回裏二死一塁から一塁ファウルグラウンドに打ち上がった飛球を、体を張ってキャッチ。また、11回に試合を決定づける2点適時打を放った三番・吉納翼(4年・東邦高)は二塁ベース付近で目頭を押さえた。明大3回戦を迎えるまで、5試合で14打数2安打1打点と苦しんでいたが、この日は3安打で副将としての仕事がようやくできた。4年生が瀬戸際で意地を見せたのである。シャットアウトした3年生・伊藤樹は「安堵したのでは……」と、吉納の涙の思いを代弁した。

 これで、慶大と早大は開幕から2カードで、いずれも勝ち点を挙げた。勝ち点を落とした法大、明大も優勝の可能性はまだ、十分に残されている。第3週は「対抗戦」の興味深さが凝縮された2カードだった。

文=岡本朋祐