誰もが認める潜在能力



勝負強い打撃を発揮している糸原

 同一カード3連敗を今季1度も喫していない戦いに、阪神の強さが垣間見える。敵地・東京ドームで2連敗して迎えた5月5日の3戦目。相手先発・高橋礼対策でテコ入れした打線が機能し、4対2で快勝した。

 この男が打てばチームが盛り上がる。2年ぶりに三番で起用された佐藤輝明が結果を出した。近本の4号右越え2ランで先制したあとの3回一死二塁。左前に運ぶ3点目の適時打を放った。この試合まで打率.187、3本塁打と打撃不振にあえぎ、4日の同戦は今季初めて欠場した。悔しい思いは当然あっただろう。適時打を打った以外の打席でも執念が垣間見えた。5回に四球で出塁すると、7回は二死からセーフティーバントを試みて球場がどよめいた。

 本来なら佐藤輝が三塁で不動のレギュラーとして活躍してもらわなければ困る。だが、打てなければポジションが確約されているわけではない。佐藤輝に刺激を入れる存在が、糸原健斗だ。

 パンチ力と出塁率の高さに定評があり、かつては主力選手として活躍していた。岡田彰布監督が就任した昨季は69試合出場と大幅に減らしたが、チームに必要な存在であること変わらない。打率.236、0本塁打、5打点と残した数字以上に貢献度は高い。左の代打で鮮やかな安打や粘った末の四球などでチャンスメーク。オリックスと対戦した日本シリーズでは6戦目に「七番・指名打者」で先発出場し、マルチ安打を記録するなど、10打数4安打、打率4割と勝負強さを発揮して日本一に貢献した。ムードメーカーとしての役割も行い、チームを活気づける。ナインからの信頼は厚い。

 今季はバットが振れている。4月24日のDeNA戦(横浜)から代打で3試合連続安打をマーク。好調の打撃を買われ、28日のヤクルト戦(甲子園)では佐藤に代わり、「六番・三塁」で今季初めてスタメン起用された。準備を怠らなかった男が輝く。2回無死一、三塁の好機で小澤怜史のフォークをすくいあげて先制の中前適時打。4回は左前打、8回も左前にはじき返して猛打賞と申し分ない働きぶりでチームの勝利に貢献した。

 岡田監督は、週刊ベースボールのコラムで以下のように語っていた。

「さあ、ここから5月戦線に入る。1年前の5月、それは勝ちまくったわ。こちらも想像してなかったくらいのすごい戦いやったし、チームとして自信になった5月やった。その1年前と比べれば、まだまだ改良、改善すべきところはある。打点を稼ぐべきポジションの大山、佐藤輝(佐藤輝明)が低空飛行のまま。ここが上昇すれば、もっと楽に展開できるのだが……。その分、ここまで補ってきたのが森下(森下翔太)になるのかな。今年は特にここぞの場面、大事な局面で結果を出しているし、2年目の進化と言えるやろな。佐藤輝は現状、五番、六番で流動的に据えているけど、クリーンアップが固まれば、そら得点能力も上がるのは間違いない」

「要するにチーム、特に打線は底の状態で推移してきた中、貯金があり、首位にも立てている。それは目立たないけど、控えの働きが大きいことはみんなが認めるところやと思う。チーム、特に打線は底の状態で推移してきた中、貯金があり、首位にも立てている。それは目立たないけど、控えの働きが大きいことはみんなが認めるところやと思う。勝負どころでの代打・糸原(糸原健斗)。粘って、粘ってボールを見極めて四球で出たり、しぶとくヒットを放ち、犠牲フライも。これで何度、チームは救われたことか」

 指揮官が称賛しているように、経験豊富で起用法の幅が広い糸原が控えているのは心強い。今季は18試合出場で打率.381をマーク。5日の巨人戦は出場機会がなかったがベンチで常に声を張り上げ、試合後の勝利のハイタッチに笑顔でナインを迎えていた。他球団のスコアラーは「選球眼が良くヒットエンドランや小細工ができる打者なので攻撃の幅が広がる。ミート能力は阪神の中でトップクラス。神経を使いますよ」と警戒を口にする。首位快走に向け、糸原の存在価値はさらに高まりそうだ。

写真=BBM