「同僚女性が男性客に性的な対応をするせいで、スタッフにセクハラする客が増えて困っている」。マッサージ店で働く社員から、このような相談が寄せられている。

相談者が勤務する店は「性的なサービスを提供する風俗店ではない」という。しかし、同僚女性が男性客の要求に応じて必要以上に密着したり、下半身を揉み続けたりするなどの「過度なサービス」を提供しているため、勘違いする客が後を絶たないそうだ。

「他のスタッフを触ったり、サービスを提供しないと怒声を浴びせたりする客もいる。同僚に注意しても改善されない」と綴っている。改善のためにできることはないのか。金井英人弁護士に聞いた。

●風営法違反にあたるおそれがある

ーー同僚の行為に法的な問題はないのでしょうか。

前提として、マッサージ店で性的なサービスを提供することが適法かの問題があります。風営法上、個室を設け、その個室で異性の客の性的好奇心に応じて接触する役務を提供する営業は「店舗型性風俗特殊営業」(風営法第2条6項6号)にあたります。このような営業を営む場合は管轄の都道府県公安委員会に届出をしなければなりません。

表向きには性的サービスを伴わないマッサージ店として営業していても、実際に個室でサービスが提供されていれば、風営法の届出が必要になり得ます。届出をしていない店で客に性的サービスを提供すれば、風営法違反になる可能性があります。

相談者の職場は風営法の届出をしたマッサージ店ではないようなので、他の従業員が性的サービスを提供していた場合、客からの通報や口コミなどをきっかけに風営法違反で摘発を受けるおそれがあります。身体を密着させたり、下半身を揉み続けたりする行為は、客の性的好奇心に応じて接触する役務にあたる可能性が高いといえるでしょう。

●違法行為に巻き込まれないように…

ーー同僚の性的サービスを受けた客から、同じサービスを強要されている従業員もいるようです。

他の従業員としては、本来経営者との間で取り交わした労働契約上の業務とは異なる内容を強いられることになります。場合によっては不同意わいせつ罪等の危険にさらされるおそれもあり、職場環境は不適切な状態にあるというべきです。

従業員は経営者に対して、労働契約上の安全配慮義務を果たすように職場環境の改善を求めることができます。改善を求められた経営者は、営業が違法状態にないか真摯に調査し、性的なサービスを隠れておこなっているスタッフがいれば、厳重に注意して改善しなければなりません。利用客に対しても過度なサービスはお断りし、要求された場合は退店を促すなどの方針を周知するべきです。

それでも経営者が改善しないようであれば、安全配慮義務違反や、採用時に説明された業務と異なる内容をさせられているとして労働契約違反を理由に辞職することもできます。違法な営業行為や利用客からの強要行為に巻き込まれないよう、早い段階で判断して行動することが重要です。

【取材協力弁護士】
金井 英人(かない・ひでひと)弁護士
愛知県弁護士会所属。労働事件、家事事件、刑事事件など幅広く事件を扱う。現在はブラックバイト対策弁護団あいちに所属し、ワークルール教育や若者を中心とした労働・貧困問題に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人名古屋法律事務所 みどり事務所
事務所URL:http://www.nagoyalaw.com/