老舗内燃機屋「井上ボーリング」で、年間700台ものヘッド再生を行うベテランヘッド技師が、不動車となったホンダ「ベンリイC92」の再生とモディファイを行う連載。第11回目は、色褪せて破れたダブルシートを刷新します!

収まりの悪い乗車ポジションのホンダ「ベンリイC92」

 このホンダ「ベンリイC92」を引取って初めて跨った際に、腰高で中途半端なポジションから思い浮かんだ自分の姿は、出前配達に行く宝寿司の梅さんでした。

 基本的にはスーパーカブと同様の直立姿勢なのですが、さらにシートが高くて膝の曲がりが少ない為、一体感に乏しく、スピード感が無いどころか、これで走っている状況が想像出来ないくらいの違和感があったのです。

 ベンリイC92は、座面の高さがタンクの厚みに対して3/4くらいの位置ですが、同じくホンダの「ベンリイCB92」ではもっと低く、タンクの中程辺りで、この辺が自分の理想とするシート高です。

 しかしベンリイCB92はタンクの前後長が長くシートは短い為、シートを換えるには同時にタンクも変えなければならず、ステップ位置も変更してチェンジペダルもリンク化が必要。そもそも希少品で高価なベンリイCB92の部品に、手を出す気にはなれません。

 赤い表皮が色褪せて破れたシートは補修をしないと使えないので、補修ついでにアンコ抜きをして、もっとフレーム上面に沿う様な低いポジションにしたいと考えましたが、このシートを外してみるとビックリ!中身はまるで、大リーグボール養成ギプスの様にスプリングが架けられた鉄フレームでした。

 その上に被されたスポンジの厚みは10㎜程度しかなく、座面を下げるにはスプリングが架けられたフレームを切って低い位置で再溶接、しかも段付きなんて出来ないので取り付け位置自体を低くしてその上で形を整えて表皮の作成が必要。そんな手間を掛けるつもりもないし、正直言って無理です。

はずしてビックリなホンダ「ベンリイC92」のダブルシートはアンコ抜き不可能
はずしてビックリなホンダ「ベンリイC92」のダブルシートはアンコ抜き不可能

 そこで一般的な鉄板ベースのダブルシートを購入し、それを車両に合わせて加工するべくネット検索をした結果、NOSのビンテージ品「ジュリアーリTTシート」が見つかりました。

購入したイタリア製ジュリアーリTTシート
購入したイタリア製ジュリアーリTTシート

 デザイン的には1960年代のアエルマッキ・スプリントみたいなイメージの形状で、価格も手頃。何よりシートベースの鉄板がベンリイC92のフレーム形状に合いそうなので、早速購入してみました。

購入したシートをばらして鉄板ベースを形状変更

 購入したシートは、大きさ的には丁度いい感じでしたが、車両に載せてみるとリアサスマウント部が合わず、フレームとシートベースの間に拳一つ分くらいの隙間が出来てしまい、このままでは肝心の座面高が変わりません。

 そこで一旦表皮とスポンジをはがしてシートベースを単体にし、前方の折り返しとタンデム部の下側面をカットして逃がし、フレームに沿う形状に加工しました。

 それ自体は別段難しい事は無く、楽しんでいるうちに取り付け部の溶接まで進んだのですが、アルミ製のモールを形状変更したシートベースに合わせて曲げ直すのが、一苦労でした。

前方とリアサスマウント部を逃がした事で極力低く取り付けたシート
前方とリアサスマウント部を逃がした事で極力低く取り付けたシート

 例えば潰れて細くなってしまったり、長さが足りなくなった為、スライスしたアルミの丸棒を溶接しようとしたら溶けて無くなってしまったり。

 何度もやり直して何とか形を整えて取り付けましたが、仕上がりはイマイチ。しかし、仕上がったシートを車体に取り付けると、中々いい感じです。

 シート後端を純正ダブルシートと同じ前後位置に合わせ、フレームギリギリの高さでマウントステーを取り付けた事で、見た目も跨った際のポジションもバッチリです。しかしながら大きな問題が発生します。

シートとタンクの間に出来た隙間からフレームが丸見え
シートとタンクの間に出来た隙間からフレームが丸見え

 シート前方の長さが若干足りず、タンク後方からフレームが丸見え!跨ってしまえば見えないとは言え、このままなんてアリエナイ。これは何としても解決しないとイケマセン。

 次回はこのタンクとシートの隙間を解消する為に考え出した、ちょっと意外な解決策を紹介します。