「Farm to Table シェフが愛する百姓・浅野悦男の365日」 [著]湯浅悦男、成見智子

 「植物に、栄養なんていらないんだよ。みんな土づくりが大事だってよく言うけど、土なんて作れないじゃん」
 17歳から60年以上、野菜たちと向き合ってきた人の言葉は、強い。
 本書は、「百姓」を自称する浅野悦男さん(レストラン向けの野菜を作る農場「シェフズガーデン・エコファーム・アサノ」のオーナー)の四季を追った第一部と、シェフたちとの対談・鼎談(ていだん)を収めた第二部からなる。
 農場入り口にある「テストキッチン」は、「めぼしい野菜と出会ったシェフがすぐに料理のイメージを形にできるようにするため」だ。そこは、シェフたちと浅野さんとの〝実験室〟のようでもある。
 「世の中の大半の人が『価値がない』と思っているものでも、自分で価値を付けることはできる。『変わり者』と言われたって、気にしなきゃいいだけの話だろう?」
 「うまくいくのか、だめになるのか。毎年の品種選定と試作は、恋愛に似ているね」
 浅野さんのチャーミングな「百姓」哲学は、心にもじわりと効く。