Eテレの番組に「おねんどお姉さん」として出演する岡田ひとみさん(43)。実はこれまで世界30都市でねんどレッスンを開催する国際派でもあります。ケニアのマサイ族、ブータン、スペインの離島…求められればどこにでも向かう、エネルギーの源とは?(全4回中の3回)

単身で海外へ、ボランティアでねんどレッスン レッスンを行うねんドルの岡田ひとみさんニューヨークでのレッスンの様子

── 全国各地でねんど教室を開いている岡田さんですが、世界でもボランティアでレッスンをしているそうですね。きっかけはなんだったのですか?

岡田さん:私はもともと日本のエンターテイナーになることしか考えていなくて、海外にまったく興味がなかったんです。卒業旅行も行かなかったし、海外旅行をしたいと思ったことがなくて。ところが、あるとき友だちに誘われて行ったら「こんなに楽しいんだ!」って気づいて。


その後、せっかくなら現地の子どもたちとねんどをしたいなと思うようになりました。たまたま2009年にカンボジアに行ったときに、日本人の女性がやっている孤児院を見つけて「ねんど教室をやらせていただけないですか」と連絡をしたんです。それが初めての海外でのねんど教室ですね。

海外は日本と気候が違うし、材料も私1人で持っていくので限られているし、誰も私のことを知らない、アウェーな環境。それなのに、ねんど教室をやると、子どもとすごくつながれて、自分がその地域の一部になれたような気がするんです。

レッスンを行うねんドルの岡田ひとみさん海外では、基本的には英語でレッスンをしているそう。どの国でも大盛り上がりだとか!

── 素敵ですね。

岡田さん:子どもはもちろん楽しんでくれるんですが、意外と大人の反応が変わります。最初は警戒していた人も、終わった後はすごく興味持ってくれて「あなたは素晴らしい」と言ってくれたり。最初は「写真は撮らないで」と言ってきた人が、終わったら「一緒に写真撮って!Facebookにあげてもいい?」と言ってくれたり。ねんど教室をやることが私にとってのアイデンティティだなと感じています。

1か月間行き先を決めず旅をしながらねんどを教える

── 受け入れ先はどうやって決まるのですか?

岡田さん:毎回行く前に、いろんな美術館や小学校、幼稚園などに連絡するんです。そこで受け入れてくれたところに行っています。どこでもウェルカムな感じではなくて、国の状況によって警戒している空気を感じるときもありますね。

あとは夏休みの時期だと、みんな働きたくないから「教室をやらせてください」と言っても「私が休みをとっているから無理」と断られたり。ものすごい数の施設に連絡したのに、どこにも受け入れてもらえなかったこともあります。

去年は久しぶりに海外旅行ができそうな状況だったので、1か月間ヨーロッパをひとりで旅をしたんです。もし突然、教室ができるようになっても困らないように、カバンに衣装とねんどをたくさん詰め込んで。最初の日に降り立つ空港と、帰国する日の空港だけ決めて、出発ギリギリまでいろんな国に連絡していました。1か月間でどの国に行けるかは教室次第、という…。

ブータンでレッスンを行うねんドルの岡田ひとみさんブータンでのレッスン。子どもたちはみんなねんどに興味津々です

── ドキュメンタリー番組みたいですね…!

岡田さん:しばらく旅行をしていなかったので自信がなかったんですけど、いろんな人に紹介してもらってなんとかなりました。友だちの友だちの友だちに連絡したりして(笑)。「受け入れてあげるよ」って言ってもらえたら、急いで近隣のホテルを予約して。しかも今は円安でホテルが高いので「鍵がかけられたらいいや」くらいの安いホテルに泊まっていました。

ねんどは言葉の壁を超える

── すごいバイタリティです…!必ずしも現地の言葉が話せるわけではないですよね?

岡田さん:そうなんです(笑)。ただ、私が現地の言葉を話せなくても、子どもってすごく話しかけてくれて。ベルリンは都会だったので、大人は英語が話せるんですね。なので、私が英語で話して、保護者の方が子どもにドイツ語に訳してくれたんですが、子どもたちは構わずドイツ語でバーッと話しかけてくれて(笑)。

スペインのメノルカ島という小さな島でやったときは、学校の代表の方もほとんど英語を話せなくて。その方の高校生ぐらいのお嬢さんが子どもたちに訳してくれたりしましたね。でも子どもはやっぱりスペイン語ですごく話しかけてくるんです。

言葉の壁を乗り越えて一緒に遊べるのがねんど。だいたい言いたいことはわかるので、通じ合えるんですよね。何か困っていそうなときも、日本人の小さなお子さんに教えているときと同じように、しばらく向き合ってみて「私になにが手伝えるかな」と考えています。

── 海外では、どんなものを作るんですか。

岡田さん:日本国内のねんど教室の場合はアシスタントがいるので、できることはたくさんあるんですが、海外では私ひとりなので、なるべく材料をたくさん使わず、現地にもある材料も使って作れるものにしています。

題材は、日本のものを作るか、現地で人気のあるものを作るかのどちらかですが、やる前に現地の人と相談して決めています。ブータンで教室をしたときは、私たちがよく目にするようなクッキーとかキャンディを知らないと言われたので、日本の文化とともにお寿司の作り方を紹介しました。

ブータンは海のない国なので、「日本では生の魚をご飯の上に乗せて食べるんですよ」「日本は人口がこのぐらいで〜」と最初に説明してから始めましたね。

── 印象的だった出会いはありますか?

岡田さん:去年いろんな国を回ったなかで、アメリカの自閉児教育専門の学校のひとつである「ボストン東スクール」で教室をしたんです。私自身、初めての経験で緊張していたんですけど、先生方も最初に「どんな反応をするのかわからない」とおっしゃっていて。

ねんドルの岡田ひとみさんボストンの学校で自閉症の子どもたちにねんどを教える岡田さん

うまくいかないのではないかという心配があるなか、子どもたちは本当に上手に、楽しそうにねんどを作っていて。しかも、保護者の方がすごく喜んでくださったんです。普段はSNSに自分の子どもの写真を載せてほしくないという方が、「日本からねんどを教えに来てくれるなんて、すごく素敵なことだから協力したい。写真も自由に撮っていいですよ」と言ってくださったり。1回きりで終わりではなく、また行けたらいいなと思ってるし、私がいなくてもねんどを続けてくれたら嬉しいです。

── なぜそこまで情熱が持てるのでしょう。

岡田さん:もちろんいつかは海外にも仕事として呼んでほしいという思いはあります。そのほうができることも増えるし、アシスタントを頼めれば、もっと大人数に定期的に教えられたりするし。

でも、まだ私自身が勉強の意味で海外に行っているところもあるので。気候が違ったり、売っている材料が違ったりするので、そういったことも意識してリサーチしつつやっています。日本とはまた違う環境でレッスンをしたとき、どんな反応が起こるのかを楽しみにしているんです。

PROFILE 岡田ひとみさん

1980年生まれ。ねんど職人+アイドル=ねんドルとして、日本や海外で子ども向けのねんど教室を開催。Eテレで放送中の『ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!』で「おねんどお姉さんひとみ」「コネル」としてレギュラー出演し、今年で12年目。

取材・文/市岡ひかり 写真提供/株式会社チーズ