【リスボン=ルイス・バスコンセロス】F1界でわが世の春を謳歌(おうか)するレッドブルに激震が走った。圧倒的な戦闘力を誇るマシンをデザインしてきた天才エンジニア、エイドリアン・ニューウェイ最高技術責任者(65)=英国=が辞表を提出し、数カ月以内に去るという。クリスチャン・ホーナー代表(50)=同=のスキャンダルに伴うチーム内のゴタゴタに、すっかり嫌気が差してしまったようだ。新天地の候補には、フェラーリとアストンマーティンが浮上している。

我慢の限界に達した

 19年間の蜜月関係が終わりを告げる。2006年からレッドブルで働き、数々のチャンピオンマシンをつくり上げてきたニューウェイ責任者が離脱を決断。ホーナー代表の女性従業員に対する不適切行為疑惑が今年2月に発覚した時点で、次のステップに進む時期だと判断したという。

 事の発端は1年半前にさかのぼる。現場への理解が深く、影響力も大きかったチームオーナーのディートリヒ・マテシッツさんが22年10月に死去。直後からホーナー代表がチーム内の主導権を強めようと画策し、育成システムを担うヘルムート・マルコ相談役との権力争いが激化する。以前所属したマクラーレンでの内部抗争にうんざりしていたニューウェイ責任者は、労働環境の悪化にいらつき、ついに我慢の限界に達した。

 チームの広報担当者は「エイドリアンの契約は来年まである」と主張するが、技術部門の複数のスタッフはニューウェイ責任者が近々に離脱することを非公式に認めた。同部門の統率権限を切望してきたピエール・ワシェ・テクニカルディレクターが今月初めに契約を更新したことも、明らかな状況証拠と言える。

5年168億円オファー

 「空力の鬼才」の異名を持ち、史上最も成功したF1マシンデザイナーと言われる男は、まだ新たな働き口を決めていない。アストンマーティンからは5年総額1億ユーロ(約168億円)にも及ぶ、エンジニア史上最高額の超大型オファーが届いているようだ。イギリスの自宅を離れずに働き続けられる環境面も好材料だ。

 それでも、以前は断ったフェラーリのラブコールに応えると見る向きは多い。F1屈指の名門で働く魅力はあらがい難く、7度の王者ルイス・ハミルトンと組むことも、ニューウェイ責任者にとっては長年の希望だった。キャリアの集大成として、イタリアに渡り、跳ね馬を選手部門で07年以来、製造者部門で08年以来の王座に導く挑戦に踏み出しそうだ。