電動車(EV)時代のホットハッチとなるヒョンデ「アイオニック5 N」に試乗しました。

 ホットハッチとは、2ボックスタイプのコンパクトカーに、パワフルなエンジンや、強化した足回りを組み込んだスポーツモデルのこと。コンパクトカーがベースなので価格も手頃で、かつては若者がスポーツドライビングを学ぶお手本として人気を博しました。

 ただ、かつて隆盛を誇ったホットハッチも、今はドイツのフォルクスワーゲン、それに英国のミニが手がけている程度。それ以外のヨーロッパ車は、ほぼ絶滅してしまいました。

 その理由は、ヨーロッパではCO2排出量が多いスポーツモデルに、高額な税金が課せられるようになったためです。もともと低価格で人気だったホットハッチの需要は激減し、手がける自動車メーカーの数も急激に減ってしまいました。

 そうした中で誕生したのがアイオニック5 Nです。EVのホットハッチであるだけでなく、さまざまなソフトウエアを搭載することにより、エンジン車では困難だった操縦性能の変更などを簡単に実現した点にも特徴があります。

 例えば、ドリフト走行をしやすくする「ドリフト・オプティマイザー」は代表的なソフトです。アイオニックは4輪駆動車ですが、その駆動力の前後配分を手動で細かく設定できます。さらにバッテリーの温度管理を変更することで、短時間に高出力を発揮したり、サーキットを何周も走行できる長距離走行モードへの切り替えもできます。

 興味深いのは、EVなのにエンジン音を発生させ、ステアリング裏にパドルシフトを模したレバーを設置し、疑似的に変速操作をすることで、まるでエンジン車を操っているような感覚を味わえるところにあります。

 率直に言って、ソフトウエアにはまだ改善の余地も見受けられました。それでも新ジャンルのクルマを生み出したヒョンデという自動車メーカーのパイオニア精神と勇気に感銘を受けました。

 ※前回のフォルクスワーゲン・ティグアンのコラムで、販売台数の推移は、2014年が約610万台、22年は約460万台、減少率も8年間で約25%でした。おわびして訂正します。 (自動車ライター)