音楽好きコロンボとカルロスが リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは 福岡県福岡市。

どこでもドアを開けるとそこはとびきりのアンビエント・ワールド

カルロス(以下カル): なんだか、ドラえもんのどこでもドアみたいな入口だね。

コロンボ(以下コロ): カラフルなだけではなくて、これドア全体も回るんだよ。回転ドアと普通のヒンジドアの2WAY。

カル: ここレコードも買えるんでしょう? お酒が飲めて、レコードも買えるお店があるといいなと思ってたんだ。福岡にあったとは。

コロ: その手のお店って、ありそうでないよね。伝説のレコ屋、青山の〈パイド・パイパー・ハウス〉も最初の頃はコーヒーが飲めたりしたけど。

カル: 〈LIVING STEREO〉はレコ屋なの? カフェなの? バーなの?

コロ: お客さんは入ってくるなり、レコードコーナーを一周してから、バーカウンターにって流れだから、建てつけとしてはレコ屋なのかな? うーむ…。

カル: 飲めて、買えるんじゃ、滞留時間が長くなりそうだね。

コロ: エスプリの効いた品揃えからもわかるように、お客さんもその辺はわきまえてて、平均1時間くらいらしい。

レコード棚の奥にバーカウンターが。レコードをディグするにはありがたすぎるスタイル。

レコード棚の奥にバーカウンターが。レコードをディグするにはありがたすぎるスタイル。

まるでどこでもドアのようなエントランス。ドア面全体が回転する構造だとか。

まるでどこでもドアのようなエントランス。ドア面全体が回転する構造だとか。

 

カル: レコードの基本ラインナップはどんな感じなの?

コロ: 9割が中古だけど、新譜のセレクトがとんがってていいんだ。

カル: ミッドセンチュリーの空間に、面出しのレコードが華やかでいい感じだね。

コロ: 店内のデコレーションとしても面出しにはこだわっているそうだよ。どこでも売っているものより、とんがった〈LIVING STEREO〉ならではのものを仕入れる方針らしい。

カル: だからOgawa & Tokoro推しなんだ。バレアリックの日本人デュオだよね。やわらかくて気持ちいい。

コロ: そう、かなり狭いところだけど、センスのいいところを突いてる。新譜に関してはアンビエントやラウンジ系など、気分ものが中心で、サバービアな感じかな。

カル: 韓国のアンビエントデュオのサラマンダもちゃんとフックアップしている。

コロ: LAベースのローレル・ヘイローの新譜『ATLAS』も推してたりね。

カル: 目利きの賜物だ。

コロ: アンビエントといえばブライアン・イーノくらいの薄い知識だからなー。12.1.4chの空間オーディで聴いた彼の『FOREVERANDEVERNOMORE』はすごかったぞ。まさに音が降ってくるようだった。

カル: ボクはダンスミュージック流れのアンビエントは好きかな。フェスや野外パーティで日の出とともに寝そべって聴いてるとたまらなく気持ちいい。

コロ: たしかに。朝のアンビエントもいい。

新譜もとんがったセレクトで展開。取材時のイチオシはカクバリズム・レーベルのOgawa & Tokoroによる『MUTUAL MUTATION』。

新譜もとんがったセレクトで展開。取材時のイチオシはカクバリズム・レーベルのOgawa & Tokoroによる『MUTUAL MUTATION』。

LAベースのローレル・ヘイローの新譜、『ATLAS』。

LAベースのローレル・ヘイローの新譜、『ATLAS』。

 

カル: 店長の澤井達哉さんは元レコード・バイヤーなんでしょ。

コロ: そうなんだ。聴きあさり始めたのは15歳から。大阪のインディロックの聖地〈フレークレコード〉にはかなり注ぎ込んだらしい。で、プレイヤーよりリスナーのプロである、バイヤーを目指したんだって。

カル: 買い付けの仕事も奥が深そうだよね。知らないレコードでも値付けしないといけないわけだから。

コロ: 知らない場合は聴いてつけるしかないから、耳を鍛えるにはいい鍛錬らしいよ。

カル: バイヤー時代、最高で80万円の値付けをした経験があるらしいじゃない。

コロ: ビートルズの茶帯ってやつで、帯が茶色なんだ。関西とか西日本限定でリリースされた日本盤。

カル: 帯がないと2000円ぐらいなんだってね(笑)。

コロ: ビートルズの茶帯はそもそも抽選会をするレベルのレアもので、お店に持ち込まれること自体、稀なシロモノだそうだ。

新譜はアンビエントに強いものの、ユーズドのエスプリの効いたセレクトでメッセージ性がある。

新譜はアンビエントに強いものの、ユーズドのエスプリの効いたセレクトでメッセージ性がある。

カル: ボクは中古レコードは買うけど、古いレコード時代のものをという緩いルールがあるんだ。 

コロ: ボクは狙ったもの以外、ゆきずりの中古レコードは3桁、つまり1000円以下って決めてるんだけど、また高くなってきたから、なかなかいいタマがないよ。

カル:  レコードもだけど、最近、クルマを買い替えたせいもあって、カーステでCDをよく聴くようになった。

コロ: サブスクじゃなくて、CD(笑)。いいね! CDの将来もいよいよ心配だよね。日本ではまだまだだけど、海外ではそろそろ怪しいメディアになってきたみたいだし。

レコードの仕分けはアーティスト別でなくジャンル別なので出合いが楽しみ。

レコードの仕分けはアーティスト別でなくジャンル別なので出合いが楽しみ。

店長の澤井達哉さんは元レコードバイヤー。リスナーのプロを目指してこの稼業に。

店長の澤井達哉さんは元レコードバイヤー。リスナーのプロを目指してこの稼業に。

 

カル: ところで、〈LIVING STEREO〉は飲みながら試聴したりできるの? 

コロ: 基本、お店で売っているものは聴けない。澤田さんがかけるレコードはあくまでかける用のコレクション。そうしないと切りがないからね。とはいえ、たまに、封をあけた新譜もかける。

カル: 飲みながら試聴っていうのは調子よすぎか。

コロ: だね。レコードは厳選されているし、アーティストごとでなくて、ジャンルごとに整理されているから、慣れてない人でも掘る楽しさがわかるかも。

カル: それはいいな。膨大な量から「なにかあるかな?」程度の気持ちだと、ちょっと探して、すぐ面倒くさくなってやめちゃう。DJのように意志を持って探しているわけじゃないので。

コロ: お店のフィルターをかけて探したほうが、断然スマート。

カル: レコードを掘るのは楽しいけど、意外と難儀な作業だから。疲れたらお茶するなり、飲めるってありがたい。

コロ: JBLのスピーカーの前に設えたプライウッドのカウンターで飲むハイボールは最高だよ。コーヒーも〈STEREO COFFEE〉が系列店だからかなりのレベル。

カル: 音楽を聴き込むあまり、いつもまでも帰らない迷惑の客もいないし、レコードバー独特の強権的なお作法もないから、気軽。飲めるレコ屋、こういうお店がもっとあってもいいかも。

コロ: でも澤井さんは、喋ったら怒られるような、ジャズ喫茶的な超硬派で無骨な店が好きらしいよ(笑)。

ショップ奥のバーカウンター。お酒、コーヒーだけでなくちょっとしたつまみもある。

ショップ奥のバーカウンター。お酒、コーヒーだけでなくちょっとしたつまみもある。

レコードの面出しにはこだわりが。お店のデコレーションのカギともいえる。

レコードの面出しにはこだわりが。お店のデコレーションのカギともいえる。

 

information

LIVING STEREO 

住所:福岡県福岡市中央区薬院2-8-10-102

tel:092-233-4574

営業時間:14:00〜26:00 日曜は〜24:00(2024年2月現在)

定休日:水曜

Web:LIVING STEREO

 

【SOUND SYSTEM】

Speaker:JBL4344

Turn Table:Techics SL-1200GAE、DENON DP-2700

Power Amplifer:McIntosh MC602

Pre Amplifer:McIntosh C41

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

writer profile

Akihiro Furuya

古谷昭弘

フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。

credit

photographer:深水敬介

illustrator:横山寛多