ゼロコロナ政策で完全に止まっていた貿易を、徐々に再開させつつある北朝鮮。国内の為替事情を見ると、一時期は北朝鮮ウォン高となっていたが、貿易再開の動きにつれて対中国人民元レートはウォン安に戻りつつある。外貨の価値が高まったことで、首都・平壌や中国国境沿いの地域では、外貨の使用が増えつつある。

複数のデイリーNK内部情報筋によると、いずれも中国との国境に接する両江道(リャンガンド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の市場で、中国人民元を使って買い物をする客が増えている。中国からの輸入品はもちろん、国内産のコメやトウモロコシを買うときも元で支払う。

北朝鮮ウォンは信用がなく、使い勝手も悪いため、北朝鮮国民は、外貨で蓄財し、使うときに少額だけ北朝鮮ウォンに両替するのが一般的だ。

北朝鮮ウォンの対中国人民元レートだが、国境封鎖直前の2020年1月17日には、両江道で1元(当時のレートで約16円)が1270北朝鮮ウォンだった。同年10月、国境封鎖がまもなく解除されるかもしれないとの期待感から1000北朝鮮ウォン台を保っていたが、年末からウォン高に転じ、2021年6月には1元(約17円)が500北朝鮮ウォン以下になった。

ただでさえ懐事情が苦しい中で、輸入品価格は高騰し、経済的に余裕のある人も損をすまいと人民元を貯め込んで使わなくなってしまった。

それが、貿易の再開に伴い、今年5月29日には1元(約19円)が1250北朝鮮ウォンで、コロナ前の水準に戻り、元で買い物をする人が増えたという。

同様の現象は平壌でも観測されている。

市内の外貨商店や百貨店では、コロナ禍でも外貨の使用ができたが、市場での使用は目に見えて減少した。しかし輸入品が増えたことで、外貨で決済をする人が増えた。衣類、扇風機、冷蔵庫、冷凍庫などの工業製品、人工調味料、大豆油などの食品を米ドルで購入する人が増え、一部の店は値札に北朝鮮ウォンと米ドルで値段を表示している。

輸入品を扱う商人は、仕入れ時に外貨を使うため、外貨で代金を支払う客を好むという。

ただ、国内での外貨使用が増えると、ウォン安を煽り、国庫にある外貨の保有が減る可能性がある。そのため、再び外貨使用禁止令が出される可能性がある。なお、直近では今年4月にも出されているが、あまり効果はなかったようだ。

国内での外貨の使用を抑えるために、当局は貿易の拡大に慎重な姿勢を取っているものと思われる。その一環として行われているのが、国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」の構築だ。

そのせいで、輸出入や密輸に頼ってきた中国国境沿いの地域の経済は深刻なダメージを受け、餓死者が続出する事態となっている。地域からは強い不満の声が上がっており、たびたび「国境が開かれる」という噂が流れ、地域全体が振り回される状況となっている。