北朝鮮国営の朝鮮中央通信は先月20日、金正恩総書記にロシアのプーチン大統領が「ロシア産専用乗用車」を贈ったと報じた。

世界各国の政治指導者らから故金日成主席への贈り物を展示する国際親善展覧館には、スターリンから送られた自動車ばかりか、列車の車両まで展示されている。北朝鮮には、かつて外国の使者が中国の皇帝に贈り物を捧げる「朝貢」的な発想が、個人崇拝と結びつき、色濃く残っていることが如実に現れた展示館だ。

権威があってこそ、この手のプロパガンダは効果を発揮するが、金正恩氏の場合はどうだろうか。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、車をプレゼントされたとのニュースに接した清津(チョンジン)市民の反応を伝えている。

「車をタダでくれるものか。それなりのものをあげたからくれたはずだ」
「本当に庶民のことを思っているなら、車の代わりに食糧を受け取り何キロずつでも配給したはずだ」(清津市民)

北朝鮮がロシアに武器を供給していることについて、国営メディアは報じていないものの、口コミネットワークを通じて情報が流れている。それにもかかわらず、ロシアから供給されたであろう食糧は庶民のところには届かず、穀物もなければそれを買う現金も底をついた「絶糧世帯」が増えつつあることから、国民の間で不満が高まっている。

「われわれのような貧乏人は、草すら食べられないほど飢えに苦しんでいる。それでも自力で努力して生きていかなければならないし、それでもダメならコチェビ(ホームレス)になって道端に転がって死ぬしかない。そんなわれわれにとって、車をもらったというニュースは気に障るし、見たくもない。むしろ報道しない方がまだマシだ」(清津市民)

ちなみにロシア政府は、車種がアウルス社のセナートで、金正恩氏が昨年ロシア訪問の際に気に入ったと語っていたことから、贈呈したと明らかにしている。価格は6000万円程度と見られている。遅かれ早かれこの情報も北朝鮮国内に伝わり、国民をさらに苛立たせるのだろう。