米韓両政府は今月15日、ワシントンDCで「北朝鮮人権協議会」を開催し、米国務省のジュリー・ターナー人権特使と韓国外務省のチョン・ヨンヒ平和外交企画団長が参加。その席では、金正恩体制による国民の基本的人権に対する侵害への対策が話し合われ、特に、反動思想文化排撃法が話題に上ったという。

同法は韓流をはじめとする外部情報の流入を取り締まるもので、最高刑は死刑となっている。すでに多くの人々が極刑に処されているもようだが、その中には金正恩体制の特権階級も含まれている。

たとえば2年ほど前には、こんなことがあった。同法に基づき取り締まりを強化していた平安南道(ピョンアンナムド)の当局が、ある17歳の少女を摘発した。祖父が朝鮮労働党平安南道委員会の幹部だというから、地方ではかなりの富裕層に属すると思われる。

当局が少女のスマートフォンを調べると、韓国映画の動画ファイルが発見された。そして、彼女から聞き出した入手経路をたどったところ浮上したのは、中国との国境に接する新義州と平城を行き来していた密輸グループだった。そして、そのグループの背後には平安南道検察所の幹部がおり、その親戚らが実行役となっていたという。

前述したとおり、同法の最高刑は死刑であり、全員が重罰を受け破滅したものと見られている。

しかし実際のところ、北朝鮮の特権階級の中には、韓流を視聴したことのない人など、一部の高齢者を除いてはほとんどいないと言われている。むしろ、貧しい内陸部の庶民らは、そんなものを見る余裕も機会もない。見方によっては、特権階級の方が「汚染度」が高いと言えるのだ。

金正恩総書記が同法に基づいた取り締まりを強力に進めるのは、むしろ体制の土台とも言える特権階級や都市住民らが「韓国化」するのを恐れてのことかもしれない。

党や軍、行政機関に在職する彼らエリートの心理的な離反は、体制にとって危険なものであるはずだ。そう考えると、金正恩体制の行動には(不当だが)合理的な部分があるようにも見える。

ただ、北朝鮮の人々が危険を冒してでも韓流に夢中になるのは、ほかにろくな娯楽がないからでもある。国民に、満足な娯楽ひとつ提供できない最高指導者の未来が明るいとは、筆者にはどうしても思えない。