TBSドラマ「不適切にもほどがある!」が大人気だが、昭和脳おじさん以上に、女性側の意識のアップデートは見過ごされてきたのかもしれない。2月18日放送の「だれかtoなかい」にて、共演の新田真剣佑さんに対して“大暴走”した真木よう子さんのことである。

「(新田さん出演のドラマ『ONE PIECE』を見て)そこで私は41にして初めて、孕(はら)ませられると思ったんですよ」と、大ファンぶりをアピール。真剣佑さんの登場を前に、MCの中居正広さんたちにした発言だったが、スタジオの大爆笑に気を良くしてか繰り返していた。本人にかけた言葉ではないとはいえ、品のない言葉選びに「セクハラでは?」だと物議を醸したようだ。

 番組では「ピー音」の入る場面もあり、中居さんらも苦笑ぎみ。新田さんが既婚者と知った上で「友達になってもらえませんか?」とグイグイいくのをいさめようとした中居さんに、「そういう友達じゃないですよ」と返答してさらにあきれさせていた。

 私は真木さんが出てきた頃、美人でスタイルも良く、藤代冥砂やリリー・フランキーといったサブカル好みの人脈も含め、クールで素敵な女優だと思っていた。それだけに、ちょっとショックだった。ずいぶん古臭い人になっちゃったなあ、と今は思う。

 下ネタ思考を男性に注意されちゃうほど、ざっくばらんな私。憧れの俳優の前ではしゃぐ真木さんには、舞い上がっている空気だけではなく、どこか「男以上に男っぽいって見られたい」「ひと味違う面白い女に見られたい」という自意識が見えたといっては言い過ぎだろうか。それは番組を盛り上げるためのサービス精神ともつながっているだろう。わざとガサツな物言いをして、照れ隠ししたい心理も働いたのかもしれない。

 ただ、性的なことを言って盛り上げ、それを注意されるまでをワンセットで見せるって、平成で打ち止めになった手法ではなかったか。少なくとも芸能界全体が性加害やコンプライアンス問題で揺れている中で、男っぽいというよりは鈍感すぎるなと思ったのである。

「若い男性を性的に見るおばちゃん」という「自虐」のきわどさ 久本雅美、大久保佳代子ら芸人に有働由美子も

 この手の話が難しいのは、女性側に全く自覚がないどころか、むしろへりくだっていると思っているふしがあるところだ。「私は若い男性を性的に見てしまう、無遠慮なおばちゃんなのだ」という、「自虐」ネタだと信じているということである。

 今はあまり見なくなったが、女性芸人が若い男性アイドルやイケメン俳優と共演すると、抱きついたり唾液をぬぐうようなそぶりをしたりするのがバラエティーの「お約束」だった。久本雅美さんや大久保佳代子さんらをはじめ、きわどい言葉をかけて相手が苦笑いするまでを鉄板ネタにしていた印象が強い。

 ただその文脈には、若いイケメンが好きというよりも、「分不相応な相手に秋波(しゅうは)を送る身の程知らずのブスなオバサン」というアピールの方が勝っていた。だからセクハラではなく自虐ネタのひとつとして受け入れられ、男性タレントのファンや視聴者も安心して見ることができたのだろう。テレビ局からは「笑いが分かっている」と重宝されるし、win-winの関係が成り立っていた。ただし、女性芸人たちがその扱いに傷ついていたかどうかは別にして。

 同じやり方で好感度を得てきたのは、有働由美子アナウンサーだ。「あさイチ」時代の脇汗騒動から、飾り気のない人という印象を持つ人が多いはず。時に独身自虐も織り交ぜ、芸人顔負けの軽妙なトークは、「おすまししてちやほやされる仕事」という女子アナイメージを塗り替え、絶大な支持を集めてきた。

 ただ有働アナの「わたしオバちゃんだから」自虐もまた、ちょっと危うい時がある。北京五輪スノーボード男子ハーフパイプ金メダリスト・平野歩夢さんに対し、「久しぶりに女心がキュンキュンとしましたね。残り少ないホルモンが出てきたみたいな気持ちになりました」とラジオで熱弁。やはり根底にあるのは、「恋愛から遠ざかっているオバちゃん」という自虐精神なのだろうが、平野選手が聞いたら戸惑っただろうなと思ったものである。

「自分の子どもに言えるかどうか」基準は人による? オタク用語をコミュニティー外でも使うヤバさ

 ドラマ「不適切〜」では、セクハラを防ぐには「自分の娘にするかどうか」を判断基準にしてはどうかというセリフがあった。男女逆にすると、「自分の息子にするかどうか」となるが、真木さんなら「え? 孕みそうって言えちゃうよ?」と返すのではないか。

 芸人や女子アナもやってきたし何が悪いの、という思いもあるだろうし、性的なニュアンスのワードが最上級の褒め言葉として使われている実態はあるからだ。

 男性声優の色っぽい演技に対して「耳が孕む」という、その“界隈”独特の言い回しはあるし、ライブ中の男性アーティストを「見るだけで妊娠しそう」と評することもある。性的に興奮をあおるようなイラストや漫画に、「シコい」と直球の言い方をすることだってある。真木さんも14歳の愛娘がいるとあって、ネットを中心とした若者層の言葉遣いに慣れていたのかもしれない。

 しかしそれはあくまでも仲間うちだけで通用する言葉であり、本来は面と向かって相手に言うべき言葉ではないというのは、ファンほどわきまえているものだ。内輪独特のコミュニケーションをコミュニティー外でやれば、それは性別や年齢を問わず「イタい」人となる。

 番組放送後の反響を受けて、真木さんはインスタグラムで「舞い上がりすぎてご迷惑をおかけしました。」と投稿。隣にいる新田さんの表情は固い。

 年がいもなく、とか、1児の母なのに、ではなく、距離感のおかしいコミュニケーションをする人は、性別属性問わず「ヤバい人」である。そのことを真木さんは体を張って見せてくれたのだと思えば、男っぽいとかオタクっぽいとか思うかはさておき、「社会派女優」という新たなイメージができたといえるのかもしれない。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部