「女子アナ」は今や、「港区女子」と同じ意味なのか――。ドジャース・大谷翔平選手の結婚報道に伴い「女子アナじゃなくて(良かった)」というワードがトレンド入りするなり、「女子アナ論」は盛り上がった。中でも「玉の輿目当て、自己顕示欲と上昇志向の塊」というコメントの多さに目を見張る。テレビ局の春の改編でも、男性アナとタレントをメインに据える動きが見られ……。【冨士海ネコ/ライター】

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 ちょうど同じ頃にあった、フリーアナウンサー・新井恵理那さんの「グッド!モーニング」降板騒動は、その「女子アナ」像の印象を強めてしまったのではないか。「降板」という表現が気に障ったか、「引き留められたが新しい働き方を探るため、後進のために自ら番組を去ることを選んだ」という長文をインスタグラムに投稿した新井さん。かわいい雰囲気はあるものの、これといった強みはないだけに、「なぜそこまで強気なのか」と困惑した視聴者は多かったようだ。

 独身時代には夫との半同棲をすっぱ抜いた週刊誌への苦言を投稿しながら、その半年後に番組内で長時間にわたるできちゃった婚報告を行いプチ炎上した新井さん。夫は時価総額150億円を超える製薬会社御曹司とも報じられ、燃料には事欠かなかった。

「女子アナ=悪」の“戦犯”たるフジテレビでも、「ぽかぽか」出演中の若手女子アナたちの失態が相次いだ。「やばい」を多用しすぎて注意されると明かした岸本理沙アナや、記者会見で「何卒」を「なにそつ」と読み間違えた元欅坂46・原田葵アナだ。MCの元NHK・神田愛花さんがたしなめ、ハライチ・岩井勇気さんは「フジテレビはそういうのでいいんです」というコメントで締めていたが、皮肉が彼女たちに響いたかはわからない。

 確かに、昔はそういうのでよかった。でも今は、「女子アナじゃなくて」がここまで盛り上がる背景を無視はできない。ただでさえテレビ業界はトラブル続き、アンチ女子アナムードだってうまく利用するしかないだろう。春の改編では、男性アナとタレントをメインに据え、イメージ一新を訴える番組も多い。

日テレの報道番組はタレントだらけに……視聴者とズレていると言われても続くタレント偏重の意図

 最も分かりやすいのが、日本テレビだ。夕方帯の「news every.」は市來玲奈アナとフリーになる藤井貴彦アナが抜け、桐谷美玲さんとハンカチ王子こと斎藤佑樹さんが加入する。二人ともキャスター研修は受けているようだが、鈴江奈々アナと森圭介アナがメインでいるのに、わざわざキャスター業をさせなくても、と思ってしまう。

 そして藤井アナは有働由美子キャスターの後任として、「news zero」へ。曜日ごとの「パートナー」として、俳優の波瑠さん、板垣李光人さん、ミュージシャンのシシド・カフカさんが起用された。ジャニーズ騒動で賛否両論のあった、櫻井翔さんも続投するという。これまでは落合陽一さんや辻愛沙子さんといった若手の論客もいただけに、全曜日タレントに振り切ってまともなコメントが出るのかと、不安視する声もある。

 同様の懸念は、8年ぶりに復活するというフジテレビ「すぽると!」にもある。メインMCに抜てきされたのは千鳥だが、特にスポーツイメージのない人選だ。以前のMC・国分太一さんの進行には、スポーツ知識の薄さを感じさせるとケチがついたこともあった。慶應大学体育会水泳部出身の榎並大二郎アナも脇にいるとはいえ、国分さんの二の舞にならないか心配である。

 思えば人気女子アナの登竜門だった「めざましテレビ」も、2021年から谷原章介さんがメインMCの「めざまし8」に。爽やか好青年として主婦人気の高さを当て込んだのだろうが、初期はズレたコメントも多く、谷原さんの起用に疑問符がつくことも少なくなかった。司会が視聴者目線を忘れないことと、報道の素人だと開き直ることは、全く違うということだろう。

 それでも危なっかしい女子アナを使うよりはいい。専門職であるはずの女子アナのミスは問題視されるが、タレントキャスターは漢字が読めなくたって世情に疎くたって「まあ仕方ないよね」とお目こぼししてもらえる可能性も高い。

 ただそれ以上に、タレントとのパイプ作りに情報系番組ほど便利なものはないのかもしれない。特に日テレは「セクシー田中さん」実写化が問題になったばかり。今後ドラマでのキャスティングが難航することを予想して、いろいろな事務所とのつながりを保っておきたいという思惑もあるだろう。タレントにとっても、クリーンで真面目な印象を与えるキャスター業はメリットがあるように映る。トラブルが報じられた事務所の所属タレントほど、自身のイメージの「ロンダリング」の場として使えると思うのは、うがった見方すぎるだろうか。

「女子アナ」はただの厄介者か? トラブル続きのテレビ業界のスケープゴートか?

 テレビ局や芸能事務所、そして世論の関係の中で、はじき出されてしまった女子アナたち。地に足のついた進行や、正確なアナウンス技術を持つまともな人もいるのだが、どうしても話題になるのはバラエティーを主戦場とする「港区女子」マインドの女子アナばかりだ。フジでは女子アナたちによるステマ騒動もあった。名誉を挽回する場所さえ与えられないのなら、グレーなアルバイトや婚活で自分の価値の高さを確かめたくなるのも仕方ないのかもしれない。

 帯の情報番組は、タレント事務所との顔つなぎの場所。フリーアナばかり重用するのは、炎上した時にいつでもクビを切れるように。まともに漢字も読めない女子アナは、さっさとフリー転身でも寿退社でもしてくれた方がラク。そんな冷徹な計算も見え隠れする、各局のキャスター人事。しかしそれはますます、在籍する女子アナの使いどころがバラエティー寄りになり、彼女たちのイメージを低下させていくサイクルに陥ってしまうように思う。

 視聴スタイルの変化に伴って、女子アナに期待される役割も変わってきている。これだけ批判を集めていても、女子アナに憧れる大学生は後を絶たない。割り切ってバラエティー採用と報道採用で門戸を分ける方が、女子アナ本人の志向ともズレが無くなり、無用な批判や人材配置ミスは避けられるに違いない。

 暦の上では春だが、女子アナたちにとっては冬の時代。「アナウンサーカレンダー」で見せる笑顔の陰で、時間がたてば切り捨てられる自分の姿をカレンダーに重ねているのではないだろうか。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部