ADORのミン代表

 韓国の現代史に残る記者会見となった。BTSが所属する韓国最大の芸能事務所HYBE(ハイブ)から業務上背任容疑で告発された子会社ADOR(アドア)のミン・ヒジン代表が25日にソウル市内で緊急記者会見を開き反撃に出たのだ。

 世界的なガールズグループとなったNewJeansの“母”“天才プロデューサー”と呼ばれるミン代表は2時間を超える会見で親会社HYBEとの確執を激しい口調で暴露。ときおり嗚咽しながらNewJeansメンバーへの愛と絆を語り韓国社会に強烈なインパクトを与えた。

 会見を見たK-POPライターがこう語る。

「クールで理知的な印象が強かったミン代表はこの日、化粧っけのない素顔で会見場に現れ、たまりにたまっていた怒りや不満を感情丸出しの強烈な口調でぶちまけました。HYBE幹部の名前を挙げて“狂ったやつら”を超える放送禁止用語を連発する姿はまさに神がかり。ラッパーとしてデビューできるほどの迫力でした。韓国国民は当初、ミン代表に批判的でしたが、この会見でミン代表への同情論が広がりすっかり形勢逆転。会見時にミン代表が着用していた日本ブランド『カリフォルニアジェネラルストア』の緑色のシャツがオンラインショップで売り切れになるほどです」

 現在、Netflixでは韓国ドラマ「涙の女王」(キム・スヒョンとキム・ジウォンのW主演)が世界的な大ヒットを記録しているが、ミン代表について「涙の女王」と呼ぶファンも現れている。韓国は男性優位社会として知られており、世界経済フォーラムが公表しているジェンダー・ギャップ指数で見ると、韓国は146か国中105位(日本は125位)。2016年には女性であるがゆえの生きづらさをテーマにした小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ベストセラーになっている。

デビューをめぐる内情

 BTSを育てたパン・シヒョク氏が理事会議長として君臨する親会社のHYBEに、涙ながらに立ち向かった子会社レーベルのミン・ヒジン代表の姿は、男性社会の中で働く女性ばかりではなく上司の強圧的な態度に耐えている多くの男性サラリーマンの共感も呼びおこしている。

 今回の会見では一般ファンの知らない事実が次々と明らかになった。一例を挙げるとNewJeansのデビューをめぐる内情だ。パン議長は当初、ミン代表に対しHYBE初のガールズグループとしてデビューを依頼したはずなのに、突然、宮脇咲良や中村一葉が加わるLE SSERAFIM(ルセラフィム)の先行デビューを通告。HYBE初のガールズグループとしてNewJeansを準備していたミン代表は動揺し、メンバーの親への説明にも苦しんだ、という。しかも、LE SSERAFIMが先にデビューするためNewJeansの宣伝広報をしないよう念を押されたというからこれが本当なら理不尽極まりない。

「今年1月7日に放送されたNHKスペシャル『世界に響く歌 〜日韓POPS新時代〜』の独占インタビューに応じたミン代表は、NewJeansデビューの戦略について『音楽と一緒に見せるメンバーたちのイメージがとても重要だと思ったので最初に“Attention”のミュージックビデオでグループを初めて披露した』と語っていましたが、実はそうせざるを得ない社内事情があったことに驚きましたね。LE SSERAFIMのデビューは22年5月、NewJeansは同7月と後れをとりました 」(前出のK-POPライター)

 会見の内容について現地のK-POPファンの間からは「感情が先走って内容はあまりなかった」の声も聞こえてくるが、「筋は通っている」「ミン代表の怒りの爆発にスカッとした」「理屈を並べるより数倍効果があった」と好意的に受け止める国民が増えている。4月10日に投開票された韓国総選挙で野党が大勝したのは、今の韓国社会に不満を持つ層が多いからで、ソウル大卒のパン議長らエリート層に罵詈雑言を飛ばして怒りをぶつけた孤高のミン代表への支持が広がるのも無理はない。

 記者会見では、激高するミン代表をとりなす男性弁護士と女性弁護士の姿にも注目が集まった。2人は「株式のHYBE持ち分率は80%、ミン代表側は20%。この状況で経営権の奪取は不可能だ」と主張する一方でミン代表の感情爆発にはなすすべなし、といった様子で笑みを見せる場面もあった。この2人が所属する「法務法人世宗(セジョン)」とHYBEの法定代理人「金(キム)&張(チャン)法律事務所」は、エンタメ業界に関して強い事務所として知られている。

まるで韓国ドラマ

 現地記者がこう明かす。

「昨年起きた東方神起やaespaが所属するSMエンタテインメントの経営権争いの際、SMの代理人を務めたのが世宗で、SMに公開買収を仕掛けたHYBEの代理人が金&張法律事務所だったのです。2020年にHYBEの株式公開(IPO)とジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデらが所属しているアメリカのイサカ・ホールディングスをHYBEが21年に買収した際も、金&張法律事務所が深く関わっていました」

 まるでNetflixの大ヒット韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を見ているような対立構図だが、SM買収劇ではHYBEが途中で断念する結果となり世宗に軍配が上がった。今回の内紛劇の行方は果たして……。

デイリー新潮編集部