視聴率2ケタをキープ

 やはり練りに練られたミスリードだったかー。28日に放送された俳優・長谷川博己主演のTBS系日曜劇場「アンチヒーロー」の第3話は意外な方向へ進んだ。初回の世帯視聴率は11.5%、第2回は12.8%と出だしは好調だった。第2回で殺人犯を無罪にしてしまったかのような後味の悪い流れが影響したのか第3回は10.4%に低下してしまったが、ひとまず2ケタはキープしたかっこうだ(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。※以下、ネタバレを含みます。

 放送ライターが第3回をこう振り返る。

「長谷川演じる主人公の明墨弁護士は第1話と第2話で殺人罪の被疑者である工場作業員の緋山の裁判に臨み、証人の信用を落とす、証拠を埋没させる、などの法的テクニックを使って無罪にしてしまった。さすがに視聴者の間から『それはダメだろ』と疑問の声が上がっていました。ただ、第3回では冤罪を絶対に作らないという分かりやすいキャラを演じて最後はスカッとしましたね」

 政治家の息子・富田正一郎(田島亮)の弁護をすることになった明墨。トラブルメーカーの正一郎は過去にも傷害事件を起こしており、今回も口裏を合わせてアリバイを作り無罪を画策していた。前事務所時代に、正一郎のたくらみによる冤罪で逮捕されてしまった松永(細田善彦)を弁護していた赤峰(北村匠海)は、正一郎が犯人である証拠を必死で探すが、明墨は「強い思い込み、中途半端な正義感が人の判断を狂わせる。冤罪を生むのはそういう人間だ!」と強く叱責した。

 公判が始まると、担当検事の緑川(木村佳乃)は、正一郎の父が秘書に命じて重要参考人を買収しようとしている証拠映像を提出。明墨は「まさか被告人が父親と示し合わせて罪を隠ぺいしようとしていたなんて」と観念したふりをして弁護人を辞任する意思を示した。事務所の後輩弁護士・紫ノ宮(堀田真由)が唖然とするほどの豹変ぶりだった。

「悪徳政治家のドラ息子まで無罪にしてしまうのか、と気になりましたが、結末は息子を有罪に追い込み政治家の買収工作まで暴いてしまいました。閉廷後、木村佳乃演じる緑川検事が明墨にかけより『あの映像の提供は…』と声をかけていましたが、それは明墨が証拠を検察に渡したことを強く示唆しています。犯罪者を無罪にしてしまうのではなく、時と場合によっては依頼人の罪を暴く正義感あふれる弁護士だったのです。また、第3話後半では、明墨が弁護士になる前は検事だったことも明かされました」(前出の放送ライター)

 となると、第2話で描かれた緋山の無罪判決はどう解釈すればよいのか。

 考えられるのは“ミスリード”だ。物語やドラマにおいて視聴者や読者を誤った方向に導く手法のことで、物語の展開をより興味深く予測不能なものにするために使われる。例えば、キャラクターやナレーターが誤った情報を提供したり伏線を設置したりすることで視聴者を誤解させる。これによって視聴者は誤った結論を抱いてしまいがちだが、そんな先入観が裏切られ、真実が解明された時、視聴者は強い感動やカタルシス(ネガティブな感情の解放)を得られ、ドラマの印象や人気、評価も高まる、というわけだ。

 TBSでは「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」(2010年)、「アンナチュラル」(2018年)、「MIU404」(2020年)などの刑事系ドラマにこの手のミスリードを数多く張っていたことで知られており、「アンチヒーロー」も引き継いでいるのかもしれない。

 今後の展開についてスポーツ紙デスクはこう推測する。

「主要な登場人物の名前にはみな色が入っています。主人公・明墨の“墨”、赤峰の“赤”、紫ノ宮の“紫”、緑川の“緑”。殺人の証拠となる返り血を浴びた作業着を廃棄物処理場に捨てた緋山にも“緋”という漢字が入っています。それだけに今後、物語のカギを握る人物として意外な場面で再登場するのではないでしょうか。緋山を演じた岩田剛典(いわた・たかのり)は三代目 J SOUL BROTHERSのメンバーで、伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』にも出演している人気俳優なだけに、これで終わりではあまりにもったいないです」

 殺人犯を無罪にしてしまうような滑り出しにモヤモヤを抱いた視聴者は多かったが、第4話以降は明墨と東京地方検察庁の伊達原検事正(野村萬斎)との因縁の対決などが軸として浮上しそうだ。最終回に向けて“白黒”ハッキリした展開になるかも。

デイリー新潮編集部