ネット上では批判の声

 霜降り明星の粗品の発言がネットニュースなどで取り上げられ、物議を醸すことが増えている。最近でも、4月12日放送の「酒のツマミになる話」(フジテレビ系)の中で「YouTuber、おもんないっすよね?」と発言したことが話題になっていた。

 彼はYouTuberという職業そのものは尊重しながらも、笑えるかどうかで言えば笑えないという持論を述べた上で、MCの千鳥をはじめとする共演者たちに意見を求めていた。

 YouTuberとして活動している人や、彼らの動画を純粋に楽しんで見ている人からすると、粗品の発言は頭ごなしの暴論であり、失礼であるように思われた。この発言に対してネット上では批判の声が高まり、自身のチャンネル内で反論するYouTuberも続々と現れた。

「YouTuberは面白くない」というのは、粗品の以前からの持論であり、彼は事あるごとにそれを口にしてきた。つい先日もラジオ番組内で「ヒカキン、おもんないやろ」と、トップYouTuberとして知られるヒカキンを腐すような発言をしていた。

優等生的な芸人のラインから徐々に外れて

 この手の粗品の邪悪な部分が知られるようになった最初のきっかけは、2021年に「週刊女性」でテレビスタッフに激怒したという疑惑を報じられたことだった。

 記事によると、レギュラー番組の「新しいカギ」の収録中に、用意された小道具のまな板が希望と違っていたため、スタッフを叱りつけ、新しいものを買いに行かせたことで収録が3時間遅れてしまったのだという。

 そのあたりの時期から、粗品は自ら悪役キャラの方向に舵を切っていったような気がする。それまでの粗品は「M-1グランプリ」「R-1グランプリ」の両方で優勝を果たしたスーパーエリート芸人として、将来有望な存在だと思われていた。霜降り明星というコンビ自体が、お笑いの王道を行く優等生的な芸人になるのだろうというイメージもあった。

 だが、粗品は徐々にそのラインから外れていった。ギャンブルに惜しげもなく大金を注ぎ込み、膨大な額の借金を重ねるさまを、自身のYouTubeチャンネルで面白おかしくネタにするようになった。

芸人としての美意識のようなもの

 粗品はゲーム配信でスーパーチャット(投げ銭コメント)をしてくれる人に対しても、もらえる金額の大小に応じて「太客」「細客」などと呼んで、明確に区別する対応をしている。

 これらの行動だけを見るといかにも金の亡者のような感じがするが、実際にはそのような振る舞いで見る人を楽しませることに徹していて、お金そのものにはさほど興味がないようにも感じられる。

 前述の毒舌キャラについても同じことが言える。粗品がYouTuberを心から憎んでいたり、恨みを持っていたりするようには見えない。単に場を盛り上げるための軽口として、深く考えずにしゃべっているように見える。

 その裏には「タブーにとらわれず思ったことを好き勝手に言って笑いを取れる人間でありたい」という彼の芸人としての美意識のようなものも感じられる。

自分のやることに圧倒的な自信

 今の粗品は多くのファンに愛され、熱烈に支持されている。テレビやラジオなどで活躍するのはもちろん、個人のYouTubeチャンネルの登録者数も195万人を超えている。

 粗品が仲間の芸人たちとサイコロゲームの「チンチロ」で勝負する企画も話題になっていて、これだけをやる武道館ライブも行われた。

 さらに、音楽の素養もある彼はミュージシャンとしても活動を始めていて、4月17日には全曲書き下ろし&歌唱のファーストアルバム「星彩と大義のアリア」をリリースした。活動の幅広さとそれぞれの密度が尋常ではないレベルに達している。

 粗品がヒールキャラを演じているのは、単にその方が人目を引くからであり、その方が自由で面白いと思っているからだろう。彼が自分に向けられた批判をものともせずに活動を続けていけるのは、自分のやることに圧倒的な自信があり、結果を出し続けていて、そこについていくファンが大勢いるからなのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部