一部で熱狂的な支持

 BTSが所属する韓国の最大手芸能事務所・HYBE(ハイブ)の内紛が激化の一途だ。ガールズグループ・NewJeans(ニュージーンズ)が所属するHYBE傘下のレーベル・ADOR(アドア)の経営権を巡り、同社のミン・ヒジン代表と親会社のHYBE(ハイブ)が真っ向から対立。放送禁止用語を繰り出すミン代表の記者会見パフォーマンスは「HYBEナンバー1のアーティストはミン・ヒジン」など一部で熱狂的な支持を集めた。SNSにはミン代表の会見をヒップホップ調のミュージックビデオに加工した動画が次々と拡散されており今やアイドル級の人気となっている。

 韓国の大手芸能事務所関係者がこう打ち明ける。

「当初、世論はミン代表について『HYBEを裏切り独立を狙う策士』といった見方が大勢で私も批判的でしたが、ミン代表の2時間にわたる記者会見で考えがひっくり返りました。男性が権力を握る超巨大企業の中で頑張っている仕事一筋の女性の姿に共感しました」

 会見後、HYBEによるミン代表“いじめ”も次々と指摘されるようになった。ミン代表が手塩にかけて育てたNewJeansは先月27日午前0時にHYBE LABELSのYouTube公式チャンネルで新曲「Bubble Gum」のミュージックビデオを公開。すると、前日午後6時にHYBE傘下のレーベルKOZエンターテインメントがBlock B・ジコの新曲「SPOT!(feat.JENNIE)」を公開した。同曲はNewJeansのライバル、BLACKPINKのジェニーがフィーチャリングとして参加しているヒップホップナンバーだ。

“いじめ”はこれだけではない。NewJeansは5月24日に韓国でタイトル曲「How Sweet」と「Bubble Gum」を収録したダブルシングルを発売するが、HYBE傘下のBIGHIT MUSICがBTSのメンバーRMの2ndソロアルバム「Right Place, Wrong Person」を同日午後1時に発売する、と発表したのだ。

業界のルール無視

 スポーツ紙芸能デスクが首をひねる。

「インスタグラムのフォロワー8500万人を誇るジェニーが参加する強烈な楽曲を『Bubble Gum』の公開6時間前にぶつけてきたり、NewJeansのダブルシングル発売日にRMのソロアルバム発売を重ねるというのは通常ではあり得ません。いずれも親会社は同じですから日程を調整して双方がかぶらないようにするのが業界のルールです。宮脇咲良を擁するLE SSERAFIM(ルセラフィム)の“音痴騒動”も今回の内紛勃発で吹っ飛びました。ミン代表に対するHYBE側の意図を感じざるをえませんね」

 追い打ちをかけるように、HYBE側はミン代表がシャーマンの“お告げ”で会社を経営していた、などと批判しているが、実際はカルトなどとは大きく異なるという。「韓国では巫俗人(ふぞくにん)と呼ばれていて女性シャーマンを指します。農業地帯では五穀豊穣、海浜部では大漁祈願に招かれ神に憑依して祈りを捧げる巫堂(ムダン)が有名です。都会でもビルの一室に事務所を構え、恋愛や結婚、就職で悩んでいる女性たちに天の声を伝える占い師のようでもありアメリカでいう心理カウンセラーのような役割もあります」(韓国の現地ジャーナリスト)。

 すでにHYBE側は先月22日、ミン代表の辞任を求める書簡を発送。25日にミン代表と副代表を業務上背任などの疑いで龍山警察署に告発し、彼女の辞任を要求した。するとミン代表は3日後の25日に、2時間に及ぶ記者会見を開いてHYBEの男性幹部を「狂ったやつら」「犬野郎」などと激しい言葉で非難し、国民の喝采を浴びた。世論が不利な方向に流れるのをおそれたHYBE側は、翌26日に12項目にまとめて反論したが、今月2日にADORが9項目の再反論を発表した。

 その中でミン代表は「HYBEがミン・ヒジン代表の年収、インセンティブ、株式報酬に言及するのはミン代表が金銭的な欲望で動く人物という虚偽のフレームを作ろうとしているため」「内密に行うべき監査内容を対外的に公表する監査件の発動は、NewJeansのカムバックを控えて昼夜仕事をしていたミン代表と職員の業務進行に深刻な障害を引き起こしている」「HYBE側は会社を分割して契約を移転したため、NewJeansのデビューは遅れるしかなかったと嘘をつき続けている点は非常に残念」「HYBEのパク・ジウォン代表がNewJeansの広報をしないでほしいと、ミン代表に電話とSNSを通じて露骨に頼んできた。SNSの会話記録で確認できる」などと、これまでの経緯が具体的に綴られている。

とんでもない秘策を準備か

 この内紛を取材している前出の現地ジャーナリストがこう話す。

「ミン代表の号泣会見以降、HYBEのイメージは悪化しています。元判事だった著名弁護士が『ミン代表の背任の決定的証拠がカカオトーク(無料メールアプリ)の文章だけだとしたら、HYBEは終わっている』『むしろHYBEやパン・シヒョク理事会議長が背任に該当する余地がある。親会社で大株主であっても、系列会社とは株主構成が異なる独立した別個の法人だ』『傘下にある会社のノウハウを親会社が勝手に引き抜いて、他の系列会社(ビリーフラボ)に適用するのは無償背任に該当する余地がある』などと指摘していることもHYBEを焦らせる理由の一つになっています」

 HYBE側はADOAに対して経営陣刷新のために取締役会と臨時株主総会の招集を求めており、手続きに沿ってミン代表の解任決議を目指す目論見だった。だが、ミン代表の法定代理人を務める法務法人・世宗はソウル西部地裁での申請尋問後に「10日までに理事会が開かれ、今月末までに株主総会が開かれる予定」と明かすなど、むしろ株主総会の開催に乗り気なのだ。

「今度は、ミン代表がHYBE相手にNewJeansの専属契約解除の仮処分訴訟を提起するのでは、との噂が飛び交っています。これは過去に絶大な人気を誇ったボーイズグループの東方神起が、2009年にSMエンターテイメントとの契約解除の際に使った方法です。ジュンス、ジェジュン、ユチョンのメンバー3人が『専属契約13年は事実上終身契約』と不当性を強調し、裁判所は一部主張を認めました。実はこの仮処分申請を仕切ったのがミン代表を支えている『世宗』なんです。ミン代表側はとんでもない秘策を準備しているのでは、との憶測を呼んでいます」(前出の現地ジャーナリスト)

 内紛劇はジェットコースターのような急展開をたどっている。韓国ドラマ以上の劇的なラストを見せるかー。

デイリー新潮編集部