メジャーリーグを揺るがした違法賭博事件以降も、プロスポーツ界では同様のスキャンダルが世間をにぎわせている。背景には、全米で年間18兆円もの規模と推計される「スポーツ賭博市場」の存在があるのだ。

 ***

「アメリカでは違法のマーケットも含めれば、スポーツベッティングの市場規模は50兆円を超えるという指摘もあります。今や全世界では330兆円規模ですが、その大半は違法マーケットともいわれています」

 そう解説するのは、東大卒でロッテに入団、引退後は米コロンビア大学経営大学院で経営学修士号を取得した後、球団フロントを経て、現在は桜美林大学教授を務める小林至氏だ。

「仲間内での賭け事は、彼らの文化の一部」

「過去に7年間、私もアメリカに住んでいましたが、オフィスや学校の教室など仲間内で賭け事をするのは、彼らの文化の一部と言っても過言ではありません。賭ける対象も多岐にわたり、NFLのスーパーボウルとか、MLBのワールドシリーズのみならず、今の時期たけなわのバスケットボール全米大学選手権でも、どこの大学が勝ち上がるのか、ベスト4を当てたり、1回戦ごとに勝利大学を予想する。彼らにとって、スポーツとギャンブルには切っても切れないつながりがあるのです」

 半ば日常的に行われていたスポーツ賭博について、アメリカの連邦最高裁が合法性の解釈を各州に委ねるとしたのは2018年のこと。前述した市場規模から税収は絶大で、全米50州のうち38州で合法化されてきた経緯がある。

8割近くの州で合法化

「常習性などへの懸念からドジャースの地元カリフォルニア州では違法ですが、8割近くの州が合法化しています。水原氏へのインタビューで注目されたスポーツ専門放送局のESPNも、賭けサイトを運営しているほどです」

 そう話すのは、現代アメリカ政治外交が専門でスポーツ賭博の制度にも詳しい上智大学教授の前嶋和弘氏。

「90年代後半、ネットの普及と共にスポーツ賭博が広まっていった印象です。その当時、私も在米生活を送っていて、今も仕事柄、全米各地をまわり政治の実態を調査していますが、どの地域でもスポーツ賭博のオンラインシステムを作ったと豪語する人に会う。現地で試しにパソコンで検索すると、30〜40前後の賭け屋サイトが表示されます」

 スマホやパソコンで気軽にアクセスでき、例えば5ドル賭けて200ドル程度のスタートボーナス特典に誘い込まれた若者が常習化。ギャンブル依存の相談が急増するなど社会問題化している。それゆえ州政府認可の業者には、厳しい縛りがあるのだ。

「秘匿性の高い、アンダーグラウンドな世界」

 先の小林氏によれば、

「原則、前金制で賭けられる上限も業者によるが1試合あたり100ドル以上はほとんど不可能。水原氏が3年ほどで使ったといわれる約6億8000万円は、合法業者なら4万5000試合に賭けた計算で常識的には無理。それだけ高額な借金を掴まされる違法な業者にハマったということでしょう。プロゴルフ界のスーパースター、フィル・ミケルソンは、かつて違法マーケットで、150億円すったことを認めています。一般的なギャンブラーでは近づけない、秘匿性の高いアンダーグラウンドな世界なわけです」

関連記事「『うちで働いていた頃は…』 水原一平氏が勤めていたすし店のオーナーシェフが明かす“素顔”」では、身近な人間だからこそ知る水原氏の素顔について報じている。

「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載