「マリン風の恩恵」が受けられない

 千葉ロッテ・佐々木朗希(22)は3月31日、メジャー移籍を視野にマスターしたとされる「MLB版・新フォークボール」を本拠地・ZOZOマリンで行われた北海道日本ハムファイターズとの一戦で披露した。結果は5回を投げ、被安打6、失点1、奪三振数は「7」で勝敗は付かなかった。

 メジャーリーグ8球団のスカウトやワシントンポスト紙など、米メディアからも熱い視線を送られていたが、彼らがとくに注目していたのは、新フォークボールの「軌道」だった。

「佐々木のフォークは落下の際、向かって左側に少し流れていく軌道でした。昨春のWBC大会中、ダルビッシュ有(37)らに助言を仰ぎ、今季は真下に落ちる軌道に改良してきました」(球団関係者)

 キャンプでもフォークボールの軌道修正を課題に挙げていた。その結果、新しいフォークは「鋭角に落ちるようになり、球速も少し上がった」との声もあるが、変えたことによって、失われたものもある。「マリン風の恩恵」を受けにくくなったのだ。

「昨季まではフォークの軌道が左に流れていましたが、マリン風の影響を受け、さらに左に流れるか、揺れながら落ちて打者を翻弄させていました。今はストンと真下に、鋭角に落ちる。つまり、マリン風を味方にする球ではなくなりました」(前出・同)

 落下しながら軌道が流れるとなれば、対戦打者に見送られた際、味方捕手が捕球できずにバッテリーミスにつながる危険性がある。またストライクではなく、ボールカウントになるかもしれない。メジャーリーグのマウンドは日本の球場よりも高く、急斜面だと言われている。揺れるフォークボールも武器になるかもしれないが、真下に落ちる軌道のほうがメジャーマウンドには適している。高いマウンドから投げる分、落差の大きいフォークボールとして、メジャーリーガーを翻弄させるとみられる。

「ワシントンポスト紙の記者が日本のメディア取材に応じ、31日の佐々木を見て、『ケリー・ウッドとピッチングスタイルがとてもよく似ている』とコメントしていました。ウッドは90年代後半から00年代、主にカブスで活躍した投手で、90マイル後半(150キロ台後半)の速球と大きく変化するカーブを武器に、デビュー5試合目で1試合20奪三振を記録し、通算奪三振数は1470でした。12年に引退していましたが今年1月、カブス球団がウッドの殿堂入りを発表しています」(スポーツ紙記者)

スタミナと集中力も

 31日の試合で「佐々木降板」がアナウンスされると、ドジャース、ヤンキース、フィリーズなどのメジャースカウトたちのほとんどが席を立った。彼らからコメントは出ていないが、新フォークボールとは別の弱点も明らかになった。

「以前から指摘されていますが、佐々木のスタミナと集中力がクローズアップされました。対戦相手がトリッキーな作戦を仕掛けてくる新庄剛志監督(52)だったせいもありますが、この日の佐々木は苦しいピッチングが続きました」(前出・同)

 初回のマウンドは、僅か8球だった。球速は150キロ台半ば。「令和の怪物」としては抑え気味のスピードだが、ストライク先行の投球が際立った。2回も3者凡退、だが、すでに新庄監督の術中に嵌まりつつあった。2回表二死、バッター・田宮裕涼(23)は平凡なサードゴロだったが、8球も要している。1回のマウンドと同じ球数を田宮一人に放らされ、続く3回も細川凌平(21)がセンター前ヒットを放つまでに9球を投じている。田宮は次打席でも9球を投げさせており、新庄監督の「打席では粘って、とにかく球数を多く投げさせろ」という作戦によって、追い込まれていった。

「細川に9球投げた後、続くスティーブンソン(29)には三塁内安打、松本剛(30)には四球を与えてしまいました。そのイニングは一死満塁のピンチをゼロに抑えましたが、粘られると剛速球かフォークの二択しかなくなり、バッテリー間でのサイン交換の時間も長くなっていきました」(ベテラン記者)

 スティーブンソンが出塁した直後、新フォークボールが大きく逸れて、ワイルドピッチになり走者を進めてしまった。3番・万波中正、4番・マルティネスは仕留めたものの、ともにフルカウントまで粘られている。僅か8球で初回を投げきったが、5回を投了した時点での投球数は、95。ベンチに戻ると、紅潮させた頬の汗を拭き、しばらく項垂れていた。同日のZOZOマリンは試合開始直後から気温20度以上の暑さで、海辺の眩しい陽射しも佐々木のスタミナを奪ってしまったのだろう。

「新庄監督は『佐々木対策』として、球数をたくさん投げさせ、1イニングでも早く降板させようとしていました。佐々木を早く降板させてからが勝負だと言っていました」(日本ハム関係者)

 佐々木が5回で降板した後、4人のリリーバーが投入された。敗戦投手になったのはクローザーの益田直也(34)ではあるが、「粘って、佐々木に1球でも多く投げさせ、後続投手から勝ち越し点を取る」という新庄監督の作戦は見事に的中した。

メジャー挑戦よりもまずは……

「佐々木の将来性は昨春のWBCで証明済みです。この日のピッチングだけで評価が落ちることはないと思いますが、100球前後でいつも交代してしまうのは残念ですね。メジャーリーグの先発投手も100球メドで降板しますが、余力を残しての交代です。日本は中6日の6人制の先発ローテーションでも、試合数の多いメジャーリーグは中5日5人制です。かねて指摘されていたスタミナ不足は解消されていません」(米国人ライター)

 また、暴投もあった新フォークボールだが、3月24日のオープン戦ではイメージ通りの落下軌道が描けないことを意識してか、ストレートで勝負する場面も多く見られた。球速は160キロを超えていたものの、どうも新フォークボールを完璧に操れていないようだ。

「17日のオープン戦では、いきなり初回に4点を奪われました。球場はZOZOマリン。この日は強風注意報も出ていましたが、マリン風に煽られて制球力を失った印象でした」(前出・スポーツ紙記者)

 ところで、佐々木の今季初登板と前後して、USAトゥデー紙が報じた記事に関係者の間で衝撃が走った。

〈佐々木は今季終了後にドジャースに移籍する計画だと予想している。ある球団のGMは、全ての球団が彼を欲しがっているが、ドジャース以外の球団に行くことはあり得ない。みんなもう分かっていること〉

 記事を書いた記者は日本語が話せることでも知られる。大谷翔平(29)のドジャース入団会見でも質問をしており、大谷の回答に納得がいかず、当時の水原一平通訳に「そんな質問はしていないよ。聞きたかったのは〜」と、発言し、注目された。そのため、今回の特ダネの情報源は「日本球界の関係者ではないか」とか「佐々木の周辺から出ているのでは」といった見方もある。だが、それよりもまず、吉井理人監督(58)の言った「中6日で1年間、先発ローテーション死守」をクリアしなければ、メジャーリーグ挑戦の話は何も進まないのではないか。

デイリー新潮編集部