100人の報道陣が

 先日、米捜査当局に訴追された、大谷翔平(29)の元通訳・水原一平(39)。精神科医が訴状を分析すると、水原氏のギャンブル依存の深刻な病理が見えてきた。【前後編の前編】

 ***

 ドジャースを解雇されて1カ月余り。水原容疑者は現地時間の今月12日午後、ロサンゼルスにある連邦地裁に姿を見せた。

「連邦検察当局は前日11日、水原を銀行詐欺の罪で訴追したと発表。大谷の口座から賭博業者に不正送金した額は、当初言われていた450万ドルを大きく上回る1600万ドル以上と判明しました」

 とは、現地ジャーナリスト。

「水原が公の場に現れたのは3月20日、韓国で行われたパドレス戦以来です。連邦地裁の前にはテレビカメラ、スチールカメラがそれぞれ10台以上並ぶなど、100人ほどの報道陣が集結しました」

 法廷に用意された50席ほどの傍聴席は、先着順でたちまち埋まったといい、

「この日の午前中、水原は司法当局に出頭。いったん身柄を拘束され、足錠をはめられながら出廷しました。同席した弁護士の要請で足錠が外され、裁判官から国籍を問われて『日本』と答えた彼は、『銀行詐欺容疑で訴追されたことを理解しているか』といった質問や、保釈条件についての説明に対して応答し、手続きは15分ほどで終了しました」(同)

 同日に保釈を許可され、保証金は2万5000ドル(約380万円)と定められたのだが、

「これには『あらゆる形で大谷との接触を禁じる』『許可なくカリフォルニア中央地区を離れない』『賭博の禁止』『ギャンブル依存症の治療を受ける』といった条件がついており、違反すると保証金の納付義務が生じる仕組みです。米国外への逃亡などを防ぐためパスポートも没収されました。次回は5月9日に罪状認否が行なわれる予定で、司法取引に応じる意向の水原は争わないとみられます」(同)

 法廷での審理が終了したのち、弁護を務めたマイケル・フリードマン弁護士は、

〈(水原容疑者は)できる限り早く事件を解決し、責任を取ることを望んでいる〉

〈大谷選手やドジャース、MLBや家族へ謝罪したいと願っている〉

 などと声明を発表したのだった。

大谷を“後ろ盾”にして…

 先のジャーナリストが続けて、

「訴追に際して当局がリリースした訴状によれば、水原は2021年9月から違法賭博に手を染め、ほどなく多額の損失を抱えるようになったといいます。21年11月から24年1月にかけ、大谷の口座から1600万ドル以上が引き出されており、情報源から提供された賭博履歴のスプレッドシートによれば、その間およそ1万9000件の賭けがなされていたというのです」

 1日あたり約25件とは、まさしくギャンブル中毒というほかない。

「1回の賭け金は10ドルから16万ドルの範囲で、平均はおよそ1万2800ドル。この間、水原は1億4200万ドルほど勝ったものの、負けは約1億8300万ドル。つまりトータルで4000万ドル以上マイナスだった計算になります」(同)

 現在のレートでおよそ62億円を負け越していたというのだ。

「財布」代わりにしていた口座は18年、渡米後の大谷が水原容疑者を伴ってアリゾナ州の銀行で開設したもので、もっぱら球団からの年俸が振り込まれていたという。一方で水原容疑者は、ギャンブルの勝ち分は自身の口座に入金していたというからあきれるばかりだが、通訳としての報酬は、先だってスポーツ専門局ESPNの取材に「30万〜50万ドル」と答えていた通り。いかに破格とはいえ、負け越し額をカバーできるものではない。

「大谷の口座から不正送金した1600万ドルを以てしても埋め合わせられないため、水原は現在も多額の負債を抱えているとみられます。当局の訴状には、水原と賭博業者との間で交わされた携帯電話でのテキストメッセージが記されている。そこでは『知っての通り、俺が払わない心配はないからね』と、大谷という“後ろ盾”をほのめかしながらも、頻繁に負け金の返済を催促されていました」(同)

〈俺は確かに彼から盗んだんだ〉

 例えば22年2月下旬、賭博業者から、

〈やあ、いい週末を過ごしたかい。20万ドルだけでも振り込んでもらえないか〉

 とのメッセージが届いており、また23年11月には、

〈なぜ電話をくれないんだ。(大谷の住む)ニューポートビーチでオオタニが犬の散歩をしているのが見える。彼に話しかけて、どうすれば君と連絡が取れるか聞いてみようか〉

 さらに24年1月、

〈君は、(返済の猶予が)手に負えなくなる状況に俺を追い込んでいる。今日中に連絡がなければ、俺の手に負えなくなる〉

 最後のやりとりは3月20日、「ロサンゼルス・タイムズ」紙が騒動をスクープした日に交わされていた。

〈記事を読んだか〉と問うた水原容疑者に業者は〈君はオオタニから盗んではいない。これはおとり捜査だ〉と取りなしたものの、観念した水原容疑者は〈俺は確かに彼から盗んだんだ。もう完全に終わりだ〉と送信していたのだった。

鮮やかな連邦当局の手法

「水原はドジャースを解雇された直後、韓国からロスに戻り、現地時間の3月21日、空港でHSI(国土安全保障捜査局)の捜査官に待ち受けられました。そこで携帯電話を押収され、通信記録の解析など捜査に同意する書面にサインをしています」(同)

 その過程で、大谷も3月25日、当局に携帯電話を提出。4月2、3日には事情聴取も受けたものの、水原容疑者の携帯に残された9700件にのぼる大谷とのやりとりを精査した結果、スポーツ賭博に関する話題は一切なかったことが判明した。

「闇の違法業者に多額の負債を抱える水原の身に危険が及ぶ恐れは大きく、当局は状況に応じて安全な場所に移送するなど、本人を緩やかな保護下に置きながら捜査を進めてきたとみられます」(同)

 その所在や、大谷の聴取を含めた情報をいっさい漏らさず、積み重ねてきた証拠を訴追の日にリリースするという連邦当局の手法は、実に鮮やかであった。

弁護費用の出どころは

 ちなみに、水原容疑者の弁護を務めるフリードマン弁護士とは、

「刑事事件を専門とし、ロスでもっとも有名な弁護士の一人です。これまでに、ハリウッドの大物プロデューサーで女優への性的暴行などで有罪となったハーヴェイ・ワインスタインや、18年に性的暴行で有罪になった3年後に逆転無罪とされた有名コメディアンのビル・コスビーなどの弁護人を務めてきました」

 とは、カリフォルニア州の司法関係者。

「彼は私選の形で依頼を受ける弁護士で、今回のような著名かつ重要な事件の報酬はトータルで50万ドルといったところでしょう。あるいは、時間単位で請求するケースもあります。その場合はおそらく1時間あたり750〜1000ドル程度と思われます」

 肝心の弁護費用の出どころは、

「水原容疑者の弁護士費用は高額。米国では一般的に、被害者であっても友人ならば相手方の法的費用を助けることは珍しくないのですが、今回は大谷が手を差しのべるとは考えられません」(同)

 訴状には、水原が業者に繰り返し「バンプ」(借入限度枠の増額)を求めていたくだりも登場する。負け分をさらに賭けで取り返そうとするのは「負け追い」と呼ばれる依存症の典型なのだが、精神科医の片田珠美氏に聞くと、

「米国の精神医学会は、9項目からなる『ギャンブル障害』の診断基準を示しています。そこには『賭け金を増やしたい欲求』『やめる努力を繰り返したが成功しなかった』『賭博や借金を隠すためにうそをつく』などとあり、いずれも水原容疑者の振る舞いに該当します」

 後編では、水原容疑者が米国から国外追放される可能性や、事件の影響で苦境に陥った彼の家族の近況などについて詳しく報じる。

「週刊新潮」2024年4月25日号 掲載