「1軍昇格を一任」は超一流選手並み

 巨人の大城卓三捕手(31)は5月18日のイースタンリーグの西武戦で適時二塁打を放ち、2軍合流後の実戦2試合目で初安打と再起への第一歩を踏み出した。正捕手として一層の飛躍が期待された今季、1軍では23試合で打率1割8分8厘、3打点で本塁打に至ってはゼロだった。セールスポイントの打撃で不振から抜け出せず、次第に自身の控えのはずだった小林誠司、岸田行倫両捕手に出番を譲るようになり、同8日には2軍降格が決まったのだった。

 スポーツメディアによると、阿部慎之助監督との話し合いの結果、次の1軍昇格のタイミングは大城による自己申告制になったという。超一流選手並みの扱いだが、これほど自主性を尊重されるということは裏を返せば、昇格時には好結果を義務づけられることになる。本人にかかるプレッシャーは想像に難くなく、阿部監督から一見追い込まれたようだが、今季は単年契約で、フリーエージェント(FA)権取得の可能性があるオフに向けた主導権は依然、大城のもとにあるという。

 大城は昨季まで指揮を執った原辰徳前監督の東海大相模高(神奈川)、東海大の直系の後輩に当たる。昨季は134試合に出場し、16本塁打。開幕前にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表への選出を果たし、巨人の正捕手の座を確固たるものにしたかと思われた。

 ところが、昨オフに球団史上初の捕手出身監督である阿部監督が就任すると、風向きが変わった。阿部監督は攻撃力を重視した前任者と打って変わって、ディフェンス色の強い野球を志向した。そもそも当初から捕手は併用制の構想を打ち出していた。原前監督のように大城を重用する采配ではなくなった。

 大城は球界でも希少な強打の捕手だが、今季は飛ばなくなったと言われる公式球の影響もあったのか、バットは湿りっぱなしだった。その上、肝心のリードでも精彩を欠き、小林、岸田がマスクをかぶった試合に対し、チーム勝率で明らかに劣っていた。

史上稀に見るFA捕手の豊作年

「阿部監督は以前から大城に、配球の工夫が足りないなどと守りに不満を口にしていました。ご自身は現役時代、周囲にリードを叩かれながら正捕手になったので、原前監督がポジションを安泰にしていた大城には危機感がありました。コーチ時代には大城の緊張感を維持しようと2番手捕手を獲得し、刺激を与える必要性を説いたほどです。今季は投手とのコミュニケーションで小林や岸田を見習うよう諭すなどしていましたが、打てず守れずではファーム行きは致し方ありませんでした」(巨人のチーム関係者)

 それでも、開幕前の大城には予期していなかった事態に違いない。しかも、終了後にはFA権を取得する可能性がある、選手人生においては極めて重要なシーズンだ。FA権取得の条件を満たすまでの1軍登録日数、残り105日は決して少なくはない数字である。

 さる在京球団編成担当によると、大城にはあえて今オフはFA取得を先送りする選択肢も出ているという。

 今オフのFA市場は史上稀に見る「捕手豊作」の年になりそうだ。ソフトバンクの甲斐拓也(31)と阪神の坂本誠志郎(30)は今季既に国内FA資格条件を満たし、中日の木下拓哉(32)も条件を満たすまで、あと50日ほどだ。開幕前からFA権を保持している阪神の梅野隆太郎(32)は複数年契約が切れ、復活気配の小林は巨人とは単年契約だ。捕手は育成に時間がかかり、どの球団にも補強は垂涎の的だけに、各球団とも調査に余念がないようだ。

巨人にアドバンテージはない

 豊作であることは、選手目線で見ると、ライバルが多いということにもなる。大城は今回の降格をチャンスと捉え、調整にたっぷり時間をかけることで、自身の希少性が高まる来オフまでFA権取得を遅らせるという手もある。

「そうなると契約面が有利になることが期待できます。森(友哉捕手/22年オフに西武からFA、現オリックス)のように、強打の捕手ならより価値は高まります」(同編成担当)

 大城の現時点の年俸はチーム内でBクラスとみられ、移籍先の球団の補償の負担が大き過ぎるということはない。来オフでもFA宣言すれば、複数球団による争奪戦は必至か。

 そして近年のFA戦線を振り返ってみると、巨人はブランド力による優位性を失ったと言っていい。昨オフはオリックスからFA宣言した山崎福也投手(日本ハム)の獲得に失敗するなど、ここ3年、FA補強ができていない。今季もメジャー帰りの筒香嘉智外野手(DeNA)を獲り逃した。

「大城の扱いを見ても、阿部監督が自身の野球で捕手を極めて重要視していることは明らかです。それだけに見る目は厳しく、求めるレベルも高いということです。ただでさえプレッシャーが大きいFA移籍で、指揮官のプレッシャーまではね返す覚悟を持つ捕手が今、どれだけいるでしょうか。巨人がFAで他球団の捕手を獲りにいっても、簡単には成功しない時代です」(同前)

交流戦中にも1軍再合流か

 これら大城に有利な条件を勘案し、チーム内年俸がAクラスの甲斐、いずれも正捕手の実力を備える阪神の両捕手の進路が固まってから来オフ、より有利な条件を引き出しての巨人残留か、他球団移籍かを熟考するのも一案だ。

 ただし、「一寸先は闇のプロの世界で、先を読み過ぎると裏目に出ることは多々あります。まずは速やかに1軍復帰し、FA権の資格条件を満たしてオフに行使するかどうかを決められる状態にしておくことがセオリーではないでしょうか。1年遅れると、自らを最も高く売り出す“旬”を逃す危険性もあります。今オフの評価が来オフ同じとは限りませんから」

 前出の編成担当はこう語った上で、大城の1軍復帰の見通しを展望した。

「交流戦(5月28日〜6月16日)は指名打者が使える試合があり、大城の打力が生かせるため、この期間を選択してもいいと思います。故障や再度不振に陥ることなど、不測の事態による長期離脱を想定すると、FA権取得を確実にするためには遅くとも(6月21日の)リーグ戦再開時には復帰したいところです」

 いずれにしても現状ではFA権を取るも取らないも大城に委ねられている形だ。自らが希望した1軍再合流の時期で、オフの去就を占うことができるかもしれない。

デイリー新潮編集部