10日に投開票

 日本の政界は自民党内の裏金問題で処分が決まるなど混迷の度を深めているが、お隣の韓国では国会議員の総選挙を10日に控えている。韓国は1院制で4年ごとに総選挙を実施。定数300でうち小選挙区が254、比例代表は46だ。この比例代表には38党が名乗りを上げるなど乱立状態。そのため投票用紙にも異変が起きている。政党名は横書きで上から下へと伸びており、投票用紙は歴代最長の51.7センチにもなるという。

 日本国内で事前投票を済ませた韓国人がこう明かす。

「投票用紙で自分が投票したい政党を見つけ、その横の方に備え付けの赤いハンコを押すという方式です。最後は封筒に入れて投票箱に入れるのですが、投票用紙が長すぎて折りたたむのに苦労しました」

 ミニ政党が居並ぶ中、今回の総選挙の台風の目となっているのが、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の側近で法務部長官を務めた元ソウル大学教授、チョ・グク氏が率いる進歩派政党の「祖国革新党」。韓国語では「祖国」を「チョグク」と発音するため、自身の名前と政党名を「チョグク革新党」と同時にアピールできる。3月3日に結党したが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に反感を持つ国民からの支持が日ごとに高まり、10議席以上獲得するのでは、との見方も出ている。

 人気の理由はそのルックスにある。ソウル大学に入学後、図書館で勉強してトイレに行ったら自分の席に女子学生が置いたメモ、手紙、缶コーヒーがたくさん積まれていたというほどで、熱狂的な女性有権者はいまだに多い。また、プロ野球のロッテジャイアンツの熱血ファンを自認しており、ロッテの球団主になるのがかつての夢だった。

 そんなチョ・グク氏は法務部長官に就任以来、子どもの不正入試に絡む偽造私文書行使など疑惑が次々と明るみに出て、剥(む)いても剥いても疑惑が出てくることから「玉ネギ男」と揶揄(やゆ)された人物だ。本人は疑惑を否定しながらも23年2月、ソウル中央地裁から懲役2年の実刑を言い渡され、24年2月にはソウル高裁が一審判決を支持したため現在、上告中だ。

“因縁の対決”で熱戦

 ただ、当時の捜査を検事総長として指揮したのが尹大統領だったことから、“因縁の対決”として、政治戦がヒートアップしている。チョ・グク氏は同党の比例代表2位になっていることから当選は確実で「次期大統領はチョ・グク」という声さえ出てきた。一方で、最高裁で刑が確定したら収監されてしまうが、テレビ局の放送演説では、ひるむことなく「尹政権の無能力、非道さ、無責任は夜が明けるまで羅列しても終わらない」と、“宿敵”への怨念を隠さない。

 世論調査では尹政権を支える保守系与党「国民の力」が劣勢で、革新系最大野党「共に民主党」の支持率がじわりと増えている。「祖国革新党」は「共に民主党」の“衛星”政党という位置づけとなっており、両党で200議席を奪うという観測まで上がっている。

 与党が劣勢となっている理由のひとつが物価の上昇だ。農産物価格が2割以上も高くなったことが国民の間で不満を広める原因となっている。このような苦境の中、尹大統領に痛恨の“ミス”が浮上したという。

 現地記者がこう明かす。

「尹大統領は先月18日、ソウル瑞草区の農協ハナロマートを訪れ店内に並ぶ野菜の価格を視察し、手に取った長ネギ1束の価格が875ウォン(約99円)だったため『合理的な値段だ』とうなずきました。これに野党や国民からは『そんな安いわけはない』『現実を知らない』などと批判が殺到。店を運営する農協流通が釈明に追われたが、尹大統領の視察後は長ネギ価格が再び上昇したため、『やらせではないか』と疑う声すら出ています。“玉ネギ”どころか、とんだ“長ネギ騒動“が政権与党の足かせとなっています」

 さらに、追い打ちをかけているのが政権与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長の失言だ。「1日に釜山市海雲台区で行った支援遊説で『政府には至らないところがあるかもしれないが、その責任は私にはないのではないでしょうか』と口を滑らせ、進歩派メディアから『図々しい』と強く批判されています」(前出の現地記者)。

 韓委員長は尹大統領の最側近で、尹大統領と同じ検察官出身であることも知られている。「政治がよく分かっていない、との批判も根強いうえ、最近、韓委員長を揶揄する物まねパロディー動画が拡散されていることも政権与党を悩ませています。その芸人はドリフの仲本工事そっくりで笑えますよ」(同)

レームダック化も

 このような事態を受け野党有利の観測が広がっているわけだが、総選挙の投票率は保守的な50代や60代が圧倒的に多く、20代や30代の若い層の投票率によっては先が見えない展開だ。日本にとっても韓国との関係に影響を与える選挙だが、日本の岸田政権と北朝鮮側で首脳会談が行われるのでは、との憶測も飛び交っているため事態は複雑だ。

「日韓の関係改善に努めてきた尹大統領ですが、日朝交渉では完全に蚊帳の外といった状態で、保守派からの批判もくすぶり始めました。野党大勝となると尹大統領のレームダック化が一気に進むことになりますが、北朝鮮との対立姿勢を崩さない尹大統領が日本の外交にどのような影響を与えるのかも勘案する必要がありそうです」(同)

 玉ネギ、長ネギ、北朝鮮……。いずれもひとくくりに束ねるのは難しいだけに岸田政権としては慎重な舵取りを迫られそうだ。

デイリー新潮編集部