現在はLIVゴルフでプレーする香妻陣一朗

 2021年に設立され、翌22年に初のシーズンを迎えた「LIVゴルフ」が3年目のシーズンを迎えている。サウジアラビアのオイルマネーを資金源に、次々に世界のトッププロを引き抜いてきた新興ゴルフリーグで、この3年のゴルフ界に数々の議論を巻き起こしてきた。

 一番の驚きは、その巨額な資金で、当初、フィル・ミケルソン(米)は2億ドル(約298億円)、ダスティン・ジョンソン(米)は1億5000万ドル(約223億円)、ブライソン・デシャンボー(米)は1億ドル(約149億円)で引き抜いたとされている。

 さらに昨年12月には世界ランキング3位のジョン・ラーム(スペイン)を獲得。その契約金は700億円超えと言われており、“お金でトッププロを買っている”というアンチの声などどこ吹く風だ。

 とにかく、2020年以降のメジャー15戦を見ると「LIVゴルフ」所属のプロが7勝を占めており、PGAツアーと「LIVゴルフ」のそれぞれに所属するトッププロたちの勢力図は甲乙つけがたいという状況だ。

 ここまで「LIVゴルフ」でプレーしているプロたちが、世界最高峰のPGAツアーではなく「LIVゴルフ」を選択する理由は何かと聞かれれば、もちろんお金がトッププライオリティだろう。

 3日間54ホールで年間の試合数は2023年と2024年が14試合ずつだけ。毎週のように全米中を転戦していたプロたちにとってみれば、巨額の契約金を手にしながら負担の少ない日程でプロ活動ができるとなれば、「LIVゴルフ」に気持ちがなびくのも無理はない。

 PGAツアーや国内男子ツアーなど世界の男子ツアーでは当たり前の4日間72ホール競技が、3日間54ホールになるだけでも負担が少なくなるのに、もらえる賞金は優勝すれば400万ドル(約6億万円)。しかも予選落ちがなく、54人の出場選手全員が賞金を手にできるとなれば、所属する選手にとってはこれ以上の待遇はないのかも知れない。

 では「LIVゴルフ」の選手とPGAツアーの選手は、獲得賞金にどのくらいの差があるのか? 昨シーズンを例に挙げて比較してみる。

 その前にまずは賞金総額を比べてみよう。2023年の「LIVゴルフ」は14試合の日程で4億500万ドル(約603億円)を用意していたが、対するPGAツアーは、ツアーへの貢献度を計るPIP(プレイヤー・インパクト・プログラム)の1億ドル(約149億円)を含め約5億6,000万ドル(約834億円)を用意。38試合という大会数もあるが、「LIVゴルフ」に対抗するための大幅な賞金増の影響で、PGAツアーの方が総額は大きかった。

 昨年の賞金ランキングを見てみると、PGAツアーのトップ10合計(フェデックスカップのボーナスなども含む)は約2億1,000万ドル(約313億円)だったが、「LIVゴルフ」のベスト10合計は約1億4,700万ドル(約219億円)。プレーした大会数の差もあるが、こちらもPGAツアーが上回っている。

 次に各ツアーで一番賞金を稼いだ面々を比較するとどうなるのだろうか?

 昨シーズン、PGAツアーで最も稼いだのは世界ランク4位のビクトル・ホブラン(ノルウェー)だ。23年はザ・メモリアルトーナメント、BMW選手権、さらには最終戦のツアー選手権と3勝するなど23試合で約1,410万ドル(約21億円)を獲得した他、フェデックスカップ王者となり1,800万ドル(約26億8,000万円)のボーナスもゲット。さらにはPIPの500万ドル(約7億5,000万円)を加え、3,710万ドル(約55億3,000万円)をコース上で稼ぎ出した。        

 一方の「LIVゴルフ」はテーラー・グーチ(アメリカ)が個人戦13試合で1,730万ドル(約25億8,000万円)を獲得。さらに年間王者として1,800万ドル(約26億8,000万円)を受け取り、最終戦におけるチーム戦の配分80万ドル(約1億2,000万円)も加えると3,610万ドル(約53億8,000万円)とした。これはホブランに100万ドル(約1億5,000万円)及ばない数字となった。

 しかし試合数で見ると、ホブランの23試合(2022-23シーズンのため2022年に開催された大会も含む)に対してグーチのそれは13試合。こうして見ると、「LIVゴルフ」の方がタイパは良いようだ。

 ちなみに日本人で唯一「LIVゴルフ」にフル参戦している香妻陣一朗はどうだろうか?

 こちらは2024年の数字となるが、マヤコバ大会38位タイ、ラスベガス大会34位タイ、ジッダ大会31位タイ、香港大会41位タイという成績。54選手が出場する中では平凡な結果となっているが、4大会合計で56万1,125ドル(約8,400万円)という賞金額は、1大会の賞金総額が1億円程度の国内ツアーと比較すると、かなり高い報酬で当然ながらコスパも良い。

 しかも3日間54ホール、ショットガン方式とはいえ、歴代のメジャーチャンピオンたちとともにプレーできる機会が得られることは香妻にとっても収穫が多いだろう。

「LIVゴルフ」でプレーしている以上、世界ランキングのポイントは得られないし、今後のPGAツアー参戦も不透明。4大メジャー出場も厳しくなる。しかし、「LIVゴルフ」に参戦できる権利があれば、短期間で巨額の報酬を得られる可能性があるのは事実となっているのだ。しかもトップ選手が「LIVゴルフ」へ移籍するとなれば高額な契約金も手にすることができる。

 ゴルファーとしての名誉を取るか? プロスポーツ選手としての実を取るのか?「LIVゴルフ」が獲得を目指す選手は、今後もこの狭間で悩むことになりそうだ。