「不適切にもほどがある!」で昭和のダメおやじの主人公・小川市郎を演じた阿部サダヲ

 3月29日、ドラマ「不適切にもほどがある!」(毎週金曜午後10時/最終回は15分拡大版)が最終回を迎えた。毎週、放送終了後にはSNSが盛り上がり、ネットニュースなどでも取り上げられた。これほど「語られる」ドラマは近年珍しい。その理由とは?

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「不適切にもほどがある!」は、主人公の昭和のダメおやじ小川市郎(阿部サダヲ)が、路線バスに乗って令和にタイムトラベルし、ハラスメントやコンプライアンスなど、昭和では考えられなかった令和の社会に斬り込んでいくドラマだ。

 令和と昭和、時代の違いを描く一方で、1995年の阪神・淡路大震災の年に、自身と娘の純子(河合優実)が亡くなることを知った市郎が、悲しい運命と向き合う姿も描き出している。

■時空を超えた父娘の愛情物語

 ドラマウオッチャーの中村裕一氏は、市郎と純子の姿にこのドラマの人気の真髄があると話す。

「“令和生まれのバス型タイムマシン”という、とてつもない“フィクション”をストーリーの軸・背骨にする大胆さ、それによって生まれるさまざまなギャップと騒動、これがこのドラマの一番の面白さだと私は思います。

 昭和と令和のカルチャーギャップや価値観の差異はあくまで傍流的なもので、私はこの作品を“時空を超えた父娘の愛情の物語”だと捉えています。

 まだフィナーレを迎えてはいませんが(※取材時)、脚本家・宮藤官九郎さんらしい、前向きなメッセージがさりげなく込められた、温もりを感じさせる人情味あふれるラストに仕上がることを願っています」

 最終回目前の22日放送の第9話では、職場における妊活とマタハラを描きつつ、市郎と純子の父娘の話には特に動きがなかった。

 そのため、最終回にはどんな展開が、そしてどんな仕掛けが待ち受けているかが、第9話終了直後からザワザワと話題になっていた。とにかく、話題、賛否で沸くドラマだった。このことを中村氏はこう分析する。

「たしかに『チョメチョメ』の連呼やIC(インティマシー・コーディネーター)の扱いなど、その不十分な表現についてネットでは賛否両論が巻き起こりましたが、ドラマを見た人が毎週一話ごとに感想や自分の考えを述べ合うというのは、まさにテレビドラマの醍醐味であり、連続ドラマにしかできない楽しみ方です。 

 宮藤さんを含む作り手が意図したにせよ意図してないにせよ、私たちに“語り合う”きっかけを与えてくれたという意味では感謝したいです」

小川市郎(阿部サダヲ)の娘・純子を演じた河合優実(写真:アフロ)

 SNSに巻き起こった「ふてほど」フィーバーは、お茶の間の中心にテレビがあった時代、食卓や翌日の学校などでテレビ番組の話題が語り合われるさまに似ていた。これほどまでに「ふてほど」が話題になる理由を、中村氏は純粋に「面白いから」と話す。

■画面に伝わる覚悟と誠実さ

「ドラマに“こうしたらネットが反応するだろう”“最後までこの謎で引っ張ろう”などといった“あざとさ”が少しでも見えてしまうと、見る側はとたんにしらけてしまいます。

 そうした小手先のテクニックではなく、作り手が心から“面白い”と思うモノを時間と労力をかけて真摯に作り上げ、批判覚悟で視聴者である私たちに懸命に届けようとしてくれる。

 画面から伝わってくるこの“覚悟”と“誠実さ”が『ふてほど』の面白さにつながっているのではないでしょうか」

 作り手の熱量が伝わる仕掛けといえば、「実名登場」もそのひとつだろう。市郎や純子の会話の中で「実名」だけが登場するものだ。

 三原じゅん子(昭和は三原順子)、八嶋智人(のちに本人出演)、秋元康、萩本欽一、板東英二、小泉今日子(ポスターに始まり、のちに本人出演)といったタレントや文化人の実名が登場した。

 そんな実名登場に中村氏は「これはもう宮藤さんの茶目っ気というか、遊び心のなせるワザ」と話す。なかでも注目は小泉今日子だという。

「第8話に小泉今日子さんがゲスト出演したのも、両者の間の揺るぎない信頼関係がうかがえますし、それだけ宮藤さんが脚本家として信用されていることに他ならないでしょう」

 実名がドラマに果たす役割は大きい、と中村氏は話す。

「なんとなく似ているキャラや名前を登場させて匂わせるのではなく、その時代のアイコンでもある人物を実名で登場させることによるインパクトは大きいです。

 それぞれがその人に対して思い描くイメージや、なんとなく感じていたこととドラマでの扱いが見事にハマった場合、大きな共感や感動、笑いを呼ぶことにもつながります。

 個人的には第4話のカラオケで、市郎が秋元康について『地獄に落ちるぜ!』と言うシーンに腹を抱えて笑いました」

 中村氏があげた秋元康のほか、昭和に一時的に帰った市郎が、純子に「三原じゅん子が国会議員になってた!」と令和ネタばらしのシーンなど、実名を伴うセリフはたった一行でも、確かにインパクトがあり、共感と笑いの起爆剤になっていたように思う。

 最終回にインパクトといえば、「男闘呼組」の元メンバー・成田昭次、俳優の小野武彦と宍戸開のゲスト出演も話題になっていた。

 語り合えるドラマ「ふてほど」もいよいよ最終回を迎えた。最後に、中村氏が心に残るシーンを“語って”もらった。

■名シーン、名セリフだらけ

「振り返ってみても名シーン、名セリフだらけでしたが、あえて私が挙げるとしたら、第5話でキヨシが不登校のクラスメート・佐高くんが聴いていることを願ってラジオ番組にリクエストハガキを書いてメッセージを送ろうとするシーン。

 脚本を書いた宮藤さんも10代の頃はハガキ職人だったこともあり、“もしかしたら聴いてくれるかもしれない”と信じてせっせとハガキを書くキヨシの姿と宮藤さんがオーバーラップしました。そんな“昭和の純真”にジーンときました」

「純真」に「ジーン」とは、なんとも昭和な締めをいただけたが、「ふてほど」は見た人の数だけ語りたい数があるドラマだったのだろう。

(AERAdot.編集部・太田裕子)