宮内庁書陵部所蔵の古典籍である「むし双六(すご・ろく)の和歌」を鑑賞する天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=23年11月24日、皇居内の同庁書陵部庁舎、宮内庁提供

 宮内庁は写真共有アプリInstagram(インスタグラム)で公式アカウントを作り、4月1日から皇室の活動に関する情報発信を開始した。開設初日でフォロワーは35万人を超えた。そんなInstagramへの期待を、象徴天皇制に詳しい名古屋大学准教授の河西秀哉氏に聞いた。

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 ちょうど1年前の2023年4月、宮内庁は広報室を立ち上げた。皇室の活動を積極的に情報発信するためで、民間からも人材を採用した。この広報室が、ホームページの改良に取り組むと共にSNSの活用についても検討を進め、とうとう“皇室インスタ”が始まった。

 4月1日午前0時に開設され、初日にフォロワーは35万人を超え、現在のフォロワーは47.4万人(2日15時現在)。開設2日目の4月2日には、天皇、皇后両陛下が3月22日に能登半島地震の被災地にお見舞いされた様子が投稿された。

 

「ホームページよりも速報性が高まることを期待するところではあります」と話すのは名古屋大学准教授の河西秀哉氏。宮内庁がInstagramを始める背景をこう説明する。

「Instagramはフォローしていれば情報が流れてくる。宮内庁のホームページを見に行くよりは、“障壁”が少なくなるというか、若い世代に対しての情報発信としては有効だと思います。

 “これからの皇室”を発信し、これまで皇室に無関心だった人も引き留めておかなければならないということも含めて、Instagramというツールを始めるに至ったのだと思います」

■タイムリーに発信できるか?

 皇室の情報発信ツールとしてのInstagramに大いに期待するいっぽうで、気がかりなのは「タイムリーに発信できるかどうか」だと河西氏はいう。

「例えば、先日、天皇、皇后両陛下が能登半島地震の被災地訪問をされましたが、そのような出来事があれば、本当にその場からタイムリーに投稿があるとか、報道ではない皇室のInstagramからのオリジナルの動画が流れてくるとかを期待したいところではあります。

 広報室ができて1年もたってようやくInstagramが始まるので、作業としてはゆっくり。もちろん、始めるにあたり十分に検討を重ねた、というのはわからなくはないですが、“遅いな”という印象です」

 

 Instagram開設までに時間がかかったように、検討を重ねるが故にInstagramの投稿が遅いのでは、「意味が薄れる」と河西氏は指摘する。

「芸能人や一般のインフルエンサーのような投稿を求めているのではなく、それなりに権威を保ちつつも、いままでの情報発信とは違う観点で取り組まなければならないということです。

 もしも投稿するときに、“この写真とこのコメントをあげてもいいでしょうか?”というふうに、稟議申請のような手続きとっていたら当然時間がかかってしまいます。いままでの情報発信と同じようにあがるのに時間がかかり、なんだかもったりしたものになってはInstagramの意味がない」

■若い世代に届く運用を

 画期的なチャレンジではあるので、温かく見守り、投稿を楽しみに待ちたいが、コメントや「#(ハッシュタグ)」など、どんなものが付くのかがひとつひとつ気になる。

 その点について、河西氏はこう話す。

「広報室ができて丸一年がたちますが、その部署が情報発信においてどこまで機能しているかというところだと思います。

 せっかく、Instagramという若い世代に人気のツールを使い始めるのですから、『#』なども含めて、若い世代に届くような運用が大切だと思います。そういう点は懸念というかやや心配ではあります。投稿そのものが“なんだかつまらない”ものでは見てもらえないものです」

 宮内庁はまずは、天皇、皇后両陛下の活動に関する画像や動画の投稿などから始めるとし、「次の時代を担う人たちにも皇室への理解をより一層深めてほしい」としている。

 次の時代を担う人に向けてというのであれば、同世代である佳子さま、愛子さま、悠仁さまから発信される日も来るのだろうか? 

 河西氏は「ゆくゆくはそういった投稿もあるのでは」と話す。

「若い世代を狙うのであれば、同世代の佳子さま、愛子さま、悠仁さまを含めてやるべきなのでしょうが、そこから始めるとなるといろいろ課題もあると思うので、まずは天皇皇后両陛下からということでしょう。

 例えば、佳子さまがいきなりInstagramに投稿するのはハードルが高いので、今回はまずは始めてみて、反応を模索していくのではないでしょうか」

 

 イギリス王室では、チャールズ国王とカミラ夫人のアカウントが「ザ・ロイヤル・ファミリー/The Royal Family (@theroyalfamily)」でフォロワー1340万人、ウィリアム皇太子とキャサリン妃のアカウントは「プリンス&プリンセス・オブ・ウェールズ/The Prince and Princess of Wales (@princeandprincessofwales)」でフォローは1598万人いる。(フォロワー数は4月1日現在)

 イギリス王室のように、日本の皇室でもさまざまな皇族アカウントができる日が来るかもしれない。

「イギリス王室では、最近、皇太子家のアカウントからキャサリン妃がガンを公表されました。ゆくゆくは秋篠宮家とかもアカウントを持つことを模索されるとは思います」と河西氏は話す。

 また、この4月からInstagramが始まる背景には「愛子さま人気もあるのでは」と河西氏は推察する。

「コンテンツとして新社会人になられる“愛子さま”があるので、そこも狙っているのかもしれません。3月26日、愛子さまが伊勢神宮参拝に向かう日に、たまたま仕事で名古屋駅にいましたが、結構な人数の人が駅に集まっていました」

伊勢神宮内宮に参拝する天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2024年3月26日

 愛子さまの初めてお一人での伊勢神宮参拝は大いに注目を集め、Xには東海道新幹線の名古屋駅から近鉄特急に乗り換える愛子さまを撮影した動画があげられたり、YouTubeにも愛子さまの伊勢神宮参拝から帰京までの動画もアップされている。

 YouTubeなどの動画は、きちんと編集され、テロップも流れ、愛子さまの自然で初々しい様子が映し出されていた。だからこそ、河西氏は「タイムリーさ」を強調する。

「一般の人がそうした動画をすぐにあげられる時代なので、宮内庁広報室自体がタイムリーさを持ってやっていくべきだとは強く思います」

 公式アカウント名は「宮内庁/Imperial Household Agency」、IDは「kunaicho_jp」。フォローして投稿を楽しみにしたい。(AERA dot.編集部・太田裕子)