写真はイメージです(Getty Images)

 日本初となる内臓脂肪を減らす薬「アライ」(大正製薬)が、4月8日から発売される。肥満に悩む人には朗報だ。肥満の専門医は、アライが減量の「主役」にはならないと指摘しつつも、意外な“効果”が生まれることに期待を寄せる。

 大正製薬のホームページでの解説によると、アライは医師の処方箋(せん)無しで薬局で購入できる。ただ、薬剤師の対面が必須な「要指導医薬品」で、購入できる人は、18歳以上▽腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上▽服用の3カ月前から運動や食事などで生活習慣改善の取り組みを行っていること▽肥満に関する病気にかかっていない、などの条件を満たしている必要がある。 

 脂肪の吸収を抑える薬で、食事でとった脂肪の約25%が便として排出されることが期待できるという。 

■副作用への対策が必要

 一方で、脂肪が多く排泄(はいせつ)されるため、下痢や軟便の副作用が想定され、おならと一緒に便や油が出てしまったり、勝手にお尻から油が出たりする可能性もあるという。副作用への対策も考えなくてはならない。 

 それでも1日3回の服用で価格は30日分(90錠)が8800円。肥満に悩む人は飛びつきたくなるかもしれない。 

「食事の中で一番カロリーが高い脂肪を排出させるという、わかりやすい薬です。同じ量を食べても、摂取カロリーが減るのですから一定の肥満改善効果は期待できると思います」

 と話すのは、肥満の専門医で関西医科大の木村穣・健康科学センター長。 

 ただ、木村さんは、 

「アライはあくまで補助的手段で、肥満改善のメインの手段にはなり得ません」 

 とくぎを刺す。服用したからもっと食べていい、運動しなくていい、では本末転倒だ。

 また、ダイエット目的の「やせ薬」と誤解するのも危険で、 

「カロリーを減らす必要がない人が服用すれば、痩せて病気になったり、脂肪の排出により脂溶性ビタミンが不足したりするなどの栄養障害を起こし、疲れやすくなる、免疫力が落ちるなどのリスクが生じます」 

 と強く指摘する。 

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 なぜ、「補助的手段」でしかないのか。 

 木村さんによると、肥満の人には、特有の「認知のゆがみ」があるのだという。 

 受診に来た患者のほぼ全員が、明らかに食べ過ぎているのに、「そんなに食べていません」と答えるのだ。 

「体重が100キロを超えるような患者さんでもそうです。ごまかしているのではなく、本心から『食べていない』と思っているから、そう答えるのです。それが『認知のゆがみ』の正体です」 

 なかには「水を飲んで太っただけ」と本気で話した患者もいたという。 

 食べていないと信じ切っている人に、食生活改善の必要性や運動する大切さを諭しても心にはまったく響かない。そもそもかみ合うことがない。 

 必要なのは患者自身が問題を認知する「気づき」なのだという。栄養士が手助けするなどし、「気づき」の瞬間にたどり着けるよう少しずつ前に進んでいく。そこに到達しない患者は「食べていない」の認知のままゆえ、リバウンドを起こしやすい。 

「アライの服用が、『気づき』のきっかけにつながるのではないか」 

 木村さんはそんな別の“効果”を期待する。 

■アライは、あくまで補助的手段

 副作用の下痢や便漏れ、油漏れのリスクを軽減するには、摂取する油の量を減らすことが重要になる。 

「副作用が起きないようにするため、例えばから揚げの個数を減らすとか、脂っこいメニューは避けるようになる。そのうえで購入の条件である運動もすれば、ちゃんと痩せるでしょう。『痩せた!』と成果を実感できたそのとき、自分が続けてきた食事などの生活習慣に問題があったという『気づき』が生まれるのではないでしょうか」 

 木村さんの患者も、半年たって減量に成功したころになってやっと、「昔はめちゃくちゃ食べてました」と認めるようになるそうだ。 

 木村さんは、アライを服用するなら、ダイエット用のアプリなどを活用して体重の変化を記録することが望ましいと話す。 

 また、周囲や医療側がメンタル面をサポートすることも非常に重要だと訴える。 

 やせることは大変だ。「よくがんばったね」「よくできましたね」と褒め言葉をかけて達成感をサポートしてあげることが大切になる。 

「アライは、あくまで補助的手段」 

 木村さんは重ねて指摘し、服用を考える人にこう言葉を送る。 

「一気に痩せようと思わないことが大切です。体重80キロの方なら1カ月で2キロ減くらいがのぞましいと思います。少しずつ、前に進んでいってください」

(國府田英之)