サヨナラ本塁打を打った細川(右から2人目)の手をとる立浪監督

2年連続最下位からの巻き返しを狙う中日。開幕カードのヤクルト戦(神宮)では2敗1分と白星が遠かったが、本拠地・バンテリンドームに戻った2カード目の巨人戦では2勝1敗と勝ち越し。3カード目の広島戦も2戦連続の零封で勝ち越しを決めた。

「巨人との初戦は3点を先制され、昨年までだったらそのまま負けていたと思う。ズルズルいかずひっくり返したのはチームに反発力が出てきている証。立浪和義監督も珍しく興奮していましたね。サヨナラアーチを打った細川成也の右手を上に掲げてスタンドの声援に応え、選手達と力強くハイタッチを繰り返していた。戦えるという手ごたえを感じていると思います」(スポーツ紙デスク)

 今年のセ・リーグは混戦が予想される。球団史上初のリーグ連覇を狙う阪神が地力に勝るが、打線が低調のままだと苦戦が予想される。残りの5球団は戦力が拮抗している。2年連続Bクラスの巨人が救援陣を強化し、西舘勇陽、佐々木俊輔など即戦力ルーキーが加入して阪神の対抗馬と目されるが、若返りを図るチーム作りはまだまだ発展途上だ。今永昇太、バウアーが抜けたDeNAは投手陣に不安を抱え、ヤクルトは山田哲人、並木秀尊が早くも故障で離脱するなど戦力層の薄さが気になる。昨季2位の広島はレイノルズ、シャイナーの両外国人が登録抹消に。そんななか、低迷期が続いている中日は戦前の下馬評こそ低いが、他球団の首脳陣からは違った見方がある。

「個々の選手の能力で言えば非常に高い。特に投手陣はセ・リーグ屈指の陣容で、優勝争いに絡む力を持っているチームだと思います。個人的に厄介だなと感じるのはプロ2年目の田中幹也ですね。攻守で数字に表れない貢献度が非常に高い。二塁の守備範囲の広さ、グラブさばきは菊池涼介(広島)と重なります。状況判断に応じた打撃ができますし、攻守で潤滑油になれる貴重な選手です。同じく2年目の村松開人の打撃が見違えるように良くなりましたし、この2人が二遊間で固定できればチーム力が一気に上がる」(セ・リーグ球団首脳)

4月2日の巨人戦で同点打を放った田中

 落合博満元監督が黄金時代を築いた「守りの野球」の象徴が、荒木雅博と井端弘和の「アライバコンビ」だった。鉄壁の守備で幾度もピンチを救い、攻撃も1、2番でチャンスメーク。機動力や小技を絡めて、2ストライクに追い込まれてもファールで粘り球数を費やさせるなど、相手バッテリーの神経をすり減らした。中日の低迷期は「アライバ解体」の時期と重なっている。

 立浪監督も二遊間の重要性を痛感している。22年から監督に就任すると京田陽太(現DeNA)、阿部寿樹(現楽天)をトレードで放出。主力選手の退団は大きな波紋を呼んだが、チームを生まれ変わらせるために断行した。ただ、若返りがスムーズに進んだとは言えない。昨季、新人でチャンスを与えられた村松開人は98試合出場で打率.207、1本塁打、20打点、1盗塁。田中はオープン戦で打撃好調だったが開幕目前に右肩を脱臼して長期離脱。1軍デビューは叶わなかった。

 昨秋のドラフトでは2位で津田啓史、3位で辻本倫太郎と即戦力の遊撃を獲得。アマチュア担当の記者は、

「村松と田中は危機感を抱いたと思います。ドラフトで大学、社会人の二遊間を獲得したということは、現有戦力が物足りないということを意味していますから」

 と話す。その刺激が効いたか、村松も田中も今年は1軍に定着した。

「2人とも学生時代から真面目で後輩のお手本になる選手でした。反省を生かし、ステップアップするための努力を惜しまない。村松は高橋由伸にそっくりな打撃フォームになり、バットがスムーズに出るようになった。田中も故障がなければ1軍で十分に通用する。今年はやってくれるでしょう」(先のアマチュア担当記者)

中田の加入で打線に重みが増した

 身体能力の高さに定評がある三好大倫も、故障で離脱した岡林勇希の穴を埋める活躍を見せている。4番に巨人から加入した中田翔が座って打線に大きな柱が入り、ベテランの大島洋平、中島宏之が代打で控えることで対戦チームに重圧をかけられる。そこに田中、村松の二遊間が「アライバ」のように成長すれば、下馬評を覆す可能性は高まるだろう。

 中日を取材する記者はそれに加えて、「このチームの命運を握っているのは高橋周平だと思います」と強調する。

「守りの野球」復活で、2011年、落合監督時代以来の優勝が見えてくる?

「打撃の方向性が定まらず試行錯誤を続けていましたが、今年は打撃フォームを改造して引っ張った力強い打球が目立ちます。3番に定着して打率3割、15本塁打、70打点をマークすれば間違いなく得点力が上がる。広いバンテリンドームで本塁打を量産するのは厳しいですが、左中間、右中間に二塁打を飛ばす力は持っている。森野将彦(現中日2軍打撃コーチ)のように中距離打者で機能すれば打線がガラッと変わります。周平を三塁で固定できるプラスアルファは打撃だけではありません。ゴールデングラブ賞を2度受賞するなど守備能力が高い。中日は基本的に守り勝つ野球。周平の復活が不可欠です」

 守り勝つ野球の下地になる投手陣は先発、救援共に充実している。先発ローテーションは柳裕也、涌井秀章、メヒア、小笠原慎之介、大野雄大、梅津晃大。救援陣は勝野昌慶、清水達也、松山晋也と剛速球を武器に三振奪取能力が高いセットアッパーがそろい、日本一の守護神、ライデル・マルティネスが控える。松山は開幕カードのヤクルト戦で2試合連続痛打を浴びたが、4日の巨人戦(バンテリンドーム)は1回2奪三振無失点に抑えており問題はないだろう。

 不安があるとすれば、先発陣のバックアップか。

「大野、梅津は故障明けであることを考慮すると登板間隔を空ける時期を考えなければいけないが、根尾昂や仲地礼亜がファームでピリッとしない。松葉貴大、福谷浩司、育成枠で成長著しい松木平優太を含めてどんどん出てきてほしい。シーズンは長丁場なので、先発投手が1人でも多いに越したことがないですから」(前出のスポーツ紙デスク)

 昨年首位を独走した阪神の強さの源は投手力だった。先発陣は村上頌樹、大竹耕太郎、伊藤将司、青柳晃洋、才木浩人、西勇輝、西純矢と質、量ともに他球団を凌駕していた。

「混戦になれば、最後にモノを言うのが投手力です。打線は水ものですから。中日は阪神の野球がお手本になる。安打が出なくても四球で出塁し、機動力を絡めて得点を奪い、投手陣が最少失点で抑える。このチームに足りないのは成功体験です。白星を積み重ねれば選手たちは自信がつくし、目指している野球の方向性に迷いがなくなる。昨年は3、4月に8勝15敗と負け越して出鼻をくじかれた。今年は勝率5割をシーズン終盤までキープして優勝争いに食いついていけば、他球団との戦力差は大きくないので、チャンスは十分にあると思います」(中日を取材する記者)

 立浪監督は就任3年目で期する思いが強い。今年はセ・リーグの「台風の目」になれるか。

(今川秀悟)