自民党の二階俊博元幹事長

 自民党の二階俊博元幹事長(85)は3月25日、次の衆議院選挙に出馬しないことを表明した。その会見で、「不出馬を決めたのは年齢も関係しているか」と問われ、「お前もその年が来るんだよ」「バカヤロウ」と吐き捨てた二階氏の姿は、旧態依然とした自民党を象徴する場面だった。この“バカヤロウ発言”を引き出したのは、毎日放送(MBS)の大八木友之記者兼解説委員(49)。昨年7月から国政取材を始めたばかりだというが、自身に向けられた二階氏の“暴言”について何を思うのか。記者と政治家との関係はどうあるべきだと考えているのか。本人に話を聞いた。

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――二階氏から「バカヤロウ」と言われた経緯は?

 最初は、「このタイミングで、次の衆院選の不出馬を決められたのは、やはり政治資金パーティーの問題、不記載であったことの責任を取られたと考えていいのですか? それとも二階先生のご年齢の問題なのでしょうか?」と聞きました。

 すると、「年齢の制限があるか?」と返ってきたので、あ、怒ったなとは思いつつ、「年齢制限はないですが、お年を考えてということですか?」ともう一度聞いたら、さらに怒った調子で「お前もその年が来るんだよ」「バカヤロウ」と。

 実は、「バカヤロウ」という言葉は、私の耳には届いていなかったんです。二階さんとは8メートルくらい離れていたし、顔の向きを変えて捨てぜりふのように言われたので。後で、会見の映像を見ていた人から「バカヤロウって言われてましたよ」と聞いて、初めて知りました。

MBSの大八木友之記者(撮影:大谷百合絵)

■「怒らせよう」として聞いたわけではない

 ただ、あれは、二階さんを怒らせようと思って聞いた質問ではありません。政治家を辞める理由がはっきり説明されなかったから、「いろいろな要素を勘案して辞めると決断されたのでしょうが、その要素の一つが年齢では?」という、純粋な疑問を投げかけただけです。

 結局、会見で二階さんの感情が最も発露したのは、年齢について聞かれた時でした。裏金問題について追及され、真相を言いたくないがために不機嫌になるなら分かりますが、あの反応を見ると「一番気にしていたのは年齢だったの?」「裏金問題の責任を取って辞めるというのは建前なの?」と思ってしまいますよね。会見を見た人にも、そういう疑問を感じてもらえたのであれば、あの質問に意味はあったと思います。

――もし「バカヤロウ」発言が聞こえていたら、反問していましたか?

 昔は暴言を吐いても許されたかもしれませんが、政治家なら、時代に合わせて言葉を選ばなきゃいけない。「その言葉はおかしいのでは?」というやりとりはしたかったです。

 二階さんとしては、自民党執行部から処分されるくらいなら自分から身を引こうという思惑はあったと思うし、地元・和歌山の選挙区事情も考えていたでしょう。引退後はご子息に継がせようと思っていた自身の選挙区に、安倍派幹部の世耕(弘成)さんがくら替え出馬を狙っているという話がある中、自ら進んで責任を取ることで、世耕さんに重い処分が下される道筋を作り、くら替えを食い止める――そういう政治的な狙いもあったのかもしれない。

 なので、その点に踏み込んだ質問もするべきでした。あの会見は長い質問を何問もできるような空気ではなかったのですが、その空気に負けず、もっと食い下がらなきゃいけなかったと思います。

大阪府知事時代の橋下徹氏(2012年)

■元大阪府知事・橋下徹氏との違い

 私自身が気になるということは、世間でも関心を持っている人がいるはずです。「不出馬の理由が明確になっていないのに、会見が終わるのはおかしい!」と、記者たちで声をあげて質問を重ねていけなかったことは反省しています。

――物足りない会見の背景には、政治家に対する記者側の忖度(そんたく)もあるのでしょうか?

 いや、会見にはみんな真剣勝負で臨んでいると思うんです。ただ、国政取材に片足をつっこんだばかりの人間から見ると、記者同士で団結して「どういうことですか!」と粘り強く追及するカルチャーは、永田町にはあまりないと感じます。

 私は2017年から21年まで、海外特派員としてパリ支局長を務めていたのですが、フランスは討論の文化がある国なので、ジャーナリストは堂々と聞きたいことを聞き、政治家は質問に対して真摯に向き合う関係性がありました。オフィシャルな取材の場で丁々発止議論して、それを報道することが立派な社会活動として受け入れられていた。

 もちろん日本でも、そういうスタイルを好む政治家はいます。私が大阪の行政担当をしていた当時の橋下徹知事は、会見は記者の質問が尽きるまで応じていたし、逆に自分の主張をアピールする場としても大事にしていました。

 でも今回の二階さんの会見は、わずか12〜13分で終わってしまった。何十年と当選を重ねてきた政治家が次の選挙に出ないというのは、地元にとっても自民党にとっても重大な話のはずです。国政取材では時に、「この政治家なんも答えてないやん」「記者もなんも聞いてないやん」と腑に落ちないまま会見が終わってしまうことがあります。

記者会見する二階派の二階俊博会長(中央)

■変わってきた記者の作法やマナー

――記者にとっての“永田町カルチャー”とは、どのような文化ですか?

 シンプルに言うと、オフレコ取材の比重が大きい世界だと思います。記者会見で求めるのはあくまで公式の見解で、会見が終わったあとにぞろぞろと政治家のあとをついていき、「さっきの発言はこういう意味ですよね?」とニュアンスを確認したり、裏にある本音を聞き出したりする。

 そうやってメディアと政治家が作り上げたカルチャーが連綿と続いてきたから、「会見の場で変なことを聞いたせいで、オフでしゃべってもらえなくなったら困る」みたいに考える記者もいるのかもしれません。

 あとは最近の事情として、会見がYouTubeなどの動画サイトで生配信される機会が増えたことで、記者たちが激しい糾弾を自重するようになった面もあると思います。私もかつては、のらりくらりと質問をかわす相手から考えや感情を引き出すために、あえて強めのボールを投げていたこともあります。でも今の時代、記者側の失礼な発言や態度は、世間との不必要な軋轢(あつれき)を生みかねないので、会見時のエチケットにはある程度気を使うことが求められています。

 ただ、お作法やマナーは変わっても、質問の内容やエッセンスを変える必要はありません。丁寧な言葉を使ったとしても、本質を突いた質問は十分できると思います。

――ご自身は、政治家の本音に迫るためにどんなことを心がけていますか?

 スポーツもそうですが、政治は長く担当している記者が絶対的に有利なジャンルです。重鎮の政治家だって、当選したてのころから付き合っていて、自分の苦しい時代も知っている記者には心を開きますよね。

■記者と政治家の“インナーサークル化”

 長年の蓄積がものを言うのは、人間関係だけではありません。相手から信頼してもらうためには、「○○政権ではこうだった」「○○法が通ったときはああだった」と、過去の記憶を共有しあえる記者でないと、なかなか難しい。

 時々、政治家とメディア数社が集まる交流会に混ぜてもらうと、周りの会話についていけないことがあるんです。「あれどうなん?」「あれはこうなん」「あーそうなん」みたいな感じで、ベテラン記者と政治家の間で、阿吽(あうん)の呼吸が成立してしまっている。

 一方で、そういう関係を築いているからこそ、記者はオフの場でしっかり話を聞いて、会見ではあまり質問しない状況が発生しているのかなとも思います。もちろん、自分だけにしゃべってもらった話を記事に書いたり放送したりすることはあるでしょうけど、ある種“インナーサークル化”しているとも言えますよね。

「裏金問題けしからん」「自民党なにやってんだ」という空気が広がる中、世間の人々は会見で真相がはっきりすることを望んでいるけれど、メディア側がその期待に応えられない。それが、「マスコミもなにやってんだ」という不信感、さらには政治への無関心につながっている面もあるかもしれません。

 とはいえ、永田町カルチャーの中で昼夜政治家に食い込み、間合いを図りながらも情報を得ている記者たちのことは尊敬しています。ただ、まだ半分外野から国政を見ていて、しかも関西圏のテレビ局の人間である自分の役割やアプローチは、また違ってくるのかなと。一般の人を政治から遠ざけないためには、表舞台の取材も大切なはず。新参者なりの持ち味や攻め方を模索していきます。

(構成/AERA dot.編集部・大谷百合絵)