高嶋政伸

 近年、ドラマでの怪演ぶりやバラエティーなどで見せる“サイコパス”ぶりが話題になっているのが俳優の高嶋政伸(57)だ。90年代のドラマ「HOTEL」での名ゼリフ「姉さん、事件です!」の爽やかな青年時代を知るアラフィフ以上の世代は、そのギャップに驚くに違いない。

 たとえば、千鳥がMCを務めるバラエティー番組「相席食堂」(3月26日放送)に出演した時のこと。政伸はいきなりパンチパーマ姿で登場。ドラマや映画で得意とするヒールとは真逆の、にこやかで親しみやすいキャラクターで街の人々と交流するも、笑顔で微妙にかみ合わない言動を繰り返す政伸。周りの反応などお構い無しの笑顔からは、徐々に作品で見せるようなサイコパスぶりがにじみ出してきて……。VTRを見る千鳥からは「ちょっと待て!」のツッコミが止まらない事態となった。

 一方、文芸雑誌に掲載されている自身の不定期連載エッセー「おつむの良い子は長居しない」では、NHK時代劇「大奥」出演時に「インティマシーコーディネーター」を導入して撮影をしたことを明かした。「鬼畜を完全に演じ切ることが、娘役を演じる俳優さんへの最低限の礼儀であり、少しでも世間に理解を求めるエクスキューズを含めたら、このシーンは台無しになってしまうのです。安心安全を担保しながら、徹底的に『悪』に徹します」(新潮社「波」2024年4月号)とつづっていた。

 これについて、民放ドラマ制作スタッフはこう補足する。

「インティマシーコーディネーターとは、映画やドラマの性的描写などを撮影する際に適切に撮影が行われるように調整役として関わる仕事のことです。政伸さんは、その活動について現場目線で正しく紹介しているとSNSでも評価されました。『俳優としての見方が変わる』『泥沼離婚の件で気持ち悪いイメージだったけど、これ読んで良さが分かった』などのコメントもあり、変態的な演技をするからこそ、役に真摯に向き合う姿勢を評価する視聴者も多かったようです」

「HOTEL」に出演していた頃の高嶋政伸(1991年)

■高島ファミリーの“裏の姿”

 政伸は俳優の高島忠夫を父に、元宝塚女優・寿美花代を母に持ち、兄の高嶋政宏も俳優として活躍する日本一有名な芸能一家に育った。

「今でいう“好感度タレント”の走りだった父・忠夫さんを中心に、お茶の間でも“高島ファミリー”として親しまれました。息子2人がデビューした後はファミリーコンサートを開催するなど、高島家の家族仲の良さはことに有名。兄弟の絆も強く、先にデビューした兄が入念に根回しをして弟のデビューをお膳立てしたことも知られています。そのかいあってか、政伸さんは俳優としてNHK朝ドラ『純ちゃんの応援歌』でデビューした後、『HOTEL』などでブレークし、“国民的弟キャラ”として有名になっていったのです」(スポーツ紙の芸能担当記者)

 しかし「高島ファミリー」には視聴者からは見えない“裏の姿”もあったようだ。

「兄・政宏は『ダウンタウンDX』で以前、流血沙汰の絶えない子供時代のエピソードを語っています。階段から政伸さんを突き落としたり、逆に政伸さんから鉛筆を頭に振り落とされたこともあったと語っていました。また、忠夫さんの死の直後に、政伸さんが父方のいとこでバイオリニストの高嶋ちさ子さんとともにバラエティーに出演し、秘蔵VTRで一家の過去を振り返っていたことがありました。家に来客があったときに騒いでいると、客が帰ったあとに直立不動でビンタされることもあり、忠夫さんを恐れていたと話していましたね。実際の高島家はパブリックイメージからはかけ離れていたようです」

独身時代の高嶋政伸(2006年)

■泥沼離婚が与えたダメージ

 芸能一家に育ち、順調に俳優の道を進んだ政伸だったが、イメージが変わる転機となったのは2011年の泥沼離婚騒動だ。

「08年に交際5カ月のスピード婚をした政伸さんですが、結婚生活は3年も経たず破綻。『ブス』『死ね』『この野郎』など罵声が飛び交うすさまじい会話の録音音声が流出するなど、それまでのイメージが覆るようなショッキングな報道が続き、好感度が一気に吹っ飛んでしまいました。離婚訴訟では事実上勝ったものの、政伸さんが俳優生命に深刻なダメージを負ったのは事実です。同時期、父親の闘病生活前後から兄弟の不仲が報じられるようにもなりました。その後、忠夫さんが亡くなった後は番組や作品での共演もなく、以前の高島家のイメージはもうありません。兄の政宏さんも『確執はある』と、離婚騒動が家族の関係に影響したと話しています」(前出の記者)

 その後の政伸は、好感度度外視の中年役に挑み、振り切れたサイコパスぶりを発揮するようになる。離婚騒動から十年以上経過した今では、悪役俳優として名をはせ、名バイプレーヤーとして重宝されるようになった。

第55回小田原北條五代祭りで観客に手を振る北条氏政役の高嶋政伸(2019年)

■笑顔の裏に潜む狂気

 エンターテイメントジャーナリストの中村裕一氏は、俳優としての政伸の魅力についてこのように分析する。

「90年代は『HOTEL』以外にも、『ジュニア・愛の関係』や『ダブル・キッチン』など、その好感度をベースに、さまざまなジャンルの作品に欠かせない存在でした。彼の近年の出演作で大きなターニングポイントとなったのは、2011年の『DOCTORS〜最強の名医〜』シリーズでしょう。総合病院の後継者でありながら、わがままで大人げない外科医を演じ、『ダブル・キッチン』でも共演した野際陽子とのコミカルなやりとりが毎回人気を集め、主演の沢村一樹に引けをとらない強烈なインパクトを残していました。また、18年にゲスト出演した『遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます』ではサイキック捜査官として、刑事役の遠藤が本番中に思わず吹き出してしまうほどの怪演を披露しています。柔和な笑顔の裏に潜む狂気や二面性を表現させたら随一。すでに大ベテランですが、俳優としてまだまだ伸びしろやブレークスルーの可能性を秘めているのでは」

 父・忠夫が作り上げた好感度ファミリーの呪縛が解けた今、政伸の振り切った演技に期待が集まる。

(雛里美和)