メジャーでも”圧勝劇”を披露したタイガー・ウッズ

 みなさんは、ゴルフトーナメントの結果を伝えるニュースで「圧勝」「独走」と聞くと、どの程度の差を思い浮かべるだろうか?

 5打差? 6打差? いやいや二桁ストローク差がないと「圧勝」とは言えない? でも、実力伯仲のプロたちがプレーするツアー競技では、通常そこまでの差は開かないのかも知れないけど……。

 今年の国内男女ツアーはまだ序盤戦だが、優勝者と2位の差が最もついたのは明治安田レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメントだ。通算16アンダーで優勝したのは鈴木愛で、2位との差は6ストローク。鈴木は初日から3打差で首位に立つと、そのまま4日間をトップで完走した。

 この勝利を伝えるニュースのタイトルには「圧勝V」「6打差圧勝」「独走16アンダー」がつけられ、鈴木の活躍を伝えるものばかり。どうやら2位に6打差をつけると「圧勝」という認識があるようだ。

 一方、3月31日が最終日だった欧州男子ツアーのヒーロー・インディアンオープン。ツアー初Vを飾った中島啓太は、通算17アンダーで2位に4打差をつける勝利だったが、これを報じる記事の見出しにも「圧勝」が踊っていた。1打差や2打差なら簡単に逆転もあるが、4打差なら首位の大崩れや、後続の猛追がなければ追いつけないということで、4打差でも圧勝のイメージがあるということなのかも知れない。

 では近年のプロトーナメントにおいて、どのくらいの大差がついたことがあるのだろうか?

 まずは国内男子。最近だと2017年のダンロップフェニックスでブルックス・ケプカが記録した9打差が最大差ではないだろうか。この大会のケプカは、初日からトップに立つと、3日目はドライバーを封印し64をマーク。4打差首位で最終日を迎えると、4アンダー67と他を寄せ付けず通算20アンダーで、まさに圧勝した。

 ダンロップフェニックスでは2004年大会でタイガー・ウッズが8打差で勝利。ケプカはこの大会の最大ストローク差優勝記録を更新したわけだが、いずれにしても、海外強豪勢と国内でプレーするプロとの実力差が見えたレコードとも言える。

 ちなみに1973年のツアー制施行後だと、最多差優勝は1994年のダイワインターナショナルで通算18アンダーを記録した尾崎将司の15打差。昭和初期には19打差という圧勝の中の圧勝というレコードもあるようだ。

 国内女子はどうだろうか。

 ここ数年での最大ストローク差優勝といえば2021年の伊藤園レディスでの稲見萌寧だろう。この年を含めた2020-21シーズンの賞金女王に輝いた当時の稲見は絶好調。本大会最終日も7バーディ、ノーボギーの7アンダー65で回り、後続に9打差をつける通算17アンダーでシーズン9勝目、さらには節目となるツアー通算10勝目を挙げている。

 また昨年には、山下美夢有がブリヂストンレディスオープンで2位に7打差をつける圧勝劇。2打差トップで最終日をスタートすると、6バーディ、ノーボギーの6アンダー65をマーク、通算18アンダーで後続を大きく突き放してシーズン2勝目を手にしている。

 一方、ツアーで記録が残る最大差優勝は1996年の伊藤園レディスだった。圧倒的な飛距離を武器に当時活躍していたローラ・デービースが、なんと2位に15打差をつける大勝。当時のトーナメントレコードとなる通算17アンダーも記録した。国内女子ツアーの公式サイトによると、優勝会見でデービースは「ハーフターンでスコアボードを見た時、今日は私が勝つ、と確信した。でも、これではテレビ放送がつまらなくなるので、後は私が1つでもスコアを伸ばして面白くするしかない」と語ったのだとか。

 また、近年の米女子ツアーで最大ストローク差がついたのは、2010年のLPGAチャンピオンシップのクリスティー・カーで12打差。4日間を60台で回り通算19アンダーでメジャー優勝を果たしている。この時の2位はキム・ソンヒーだったが、3位タイには宮里藍さんらがつけ通算5アンダー、通算1アンダー単独13位に宮里美香が続いていた。

 なお、72ホール競技での最大ストローク差は、1949年全米女子オープンで優勝したルイーズ・サグスと、1986年マスターカード・インターナショナル・プロアマを制したシンディ・マッケイが記録した14打差となっており、上記のデービースの圧勝ぶりが際立っている。

 では、最後に近年のPGAツアーをチェックしてみよう。

 2位に最も差をつけて勝利したのは15打差をつけた2000年の全米オープンのタイガー・ウッズ。二桁差となるとウッズはこの他、1997年のマスターズで12打差をつけており、当時はメジャーでも強烈な強さを見せつけていた。

 特に1997年のマスターズは衝撃的だった。ウッズが記録した通算18アンダーは大会史上最小で、21歳3カ月での優勝は最年少。マスターズでアマチュアとしてプレーしたこともあるウッズだったが、前年のプロ転向後に初めて出場したこのメジャーで、いきなり度肝を抜く圧勝劇を見せたというわけだ。

 とはいえ、記録を古くまで遡るとウッズ以上に差をつけたチャンピオンがいる。そのストローク差は16打で、これを実現したのは合計4名。1919年のJ.ダグラス・エドガーと1924年のジョー・カークウッド、1936年にはサム・スニードがウエスト・バージニア・クローズド・プロで16打差をつけ勝利し、1948年にはボビー・ロックがシカゴ・ビクトリー・ナショナル・オープンで記録している。

 今後、各選手のレベルが向上している中で、優勝者と後続にここまでのストローク差が発生する可能性は低いが、こうした記録も気にしつつ、トッププロのプレーを観るのもゴルフ観戦の楽しみの一つだろう。