楽曲「NIGHT DANCER」が日本、韓国をはじめ世界各国でヒットし、瞬く間に“新世代グローバルアーティスト”と称されるようになったimaseさん(撮影/写真映像部・東川哲也、ヘアメイク/向井大輔)

 20歳で音楽をはじめ、わずか1年後にメジャーデビュー。楽曲「NIGHT DANCER」が日本、韓国をはじめ世界各国でヒットし、瞬く間に“新世代グローバルアーティスト”と称されるようになったimase。音楽経験ゼロの状態からスタートし、「“凡人”の戦い方をしてきた」という彼の“ヒット曲の生み出し方”とは。

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■音楽経験ゼロから約1年でメジャーデビュー

 岐阜出身、2000年生まれのimaseが音楽をはじめたのは、2020年の秋。家業を手伝うために使っていたパソコンに音楽制作ソフトをインストールし、キーボードを購入。翌年5月、TikTokに「音楽経験0の素人がオリジナル曲を作ってみた(dtm歴4カ月)」と初投稿したのがすべてのはじまりだった。

 その直後にメジャーレーベルから連絡があり、デビューに向けての準備を開始。フル尺の曲を作ったのは、レーベルのスタッフとやりとりするようになってからだという。そして2021年末、シングル「Have a nice day」メジャーデビューを果たした。 

 知名度が上がったきっかけは、「NIGHT DANCER」の大ヒット。BTSのJUNG KOOKのカバー動画にも後押しされ、韓国を筆頭に世界各国で注目を集めた。その後も「ミッドナイトガール」(テレ東ドラマ「チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ」主題歌)、「ユートピア」(映画「SAND LAND」主題歌)などの話題曲を次々と発表し、新世代アーティストの旗手と称すべき存在となった。

「メジャーデビューからの3年間はとにかく目まぐるしくて。ライブもそうですが、初めて挑戦することばかりだったので、なんとか食らいついていこうと思っていました。ターニングポイントはやはり『NIGHT DANCER』。韓国とタイでライブをしたときに、お客さんが日本語で全部歌ってくれたのですが、そんなことが起きるなんてまったく想像してなかったのでビックリしました」

“音楽経験ゼロ”からスタートしわずか3年でブレイク。しかしimaseさん自身は「楽器ができるわけでもないですし、特別な才能があるとは思っていないです」と語る(撮影/写真映像部・東川哲也、ヘアメイク/向井大輔)

 “音楽経験0”からスタートし、わずか3年でブレイクというエピソードからはつい“天才”という言葉が浮かんでくるが、imase自身は「楽器ができるわけでもないですし、特別な才能があるとは思っていないです」と語る。それではなぜ、彼の楽曲はこれほど多くの音楽ファンを惹きつけているのか。ひとつめのポイントは情報収集とインプットだ。

「今流行っている曲を日々チェックしたり、インプットは欠かさないようにしています。また、タイアップ曲の場合は、自分のルーツにはないジャンルの曲も取り入れていますね。たとえば『Happy Order?』(マクドナルドタイアップソング)の場合は、SMAPさんや嵐さんなど、2000年代のアイドルソングを参考にしていました。“矢島美容室”さん(とんねるず、DJ OZMAによるユニット)のちゃめっ気がある歌詞も参考にしていましたね」

■「歌詞はサクッと」納期を見据えて効率よくつくることも大切

 さらに、できるだけ効率よく、スピード感を持って制作することも意識しているという。

「特にタイアップの場合は納期もあるので、効率はかなり大事ですね。具体的に言うと、ジャンル感や楽曲の雰囲気につながるビートのテイストは早めに決めて、そこにギターやキーボードなどでコードを乗せて。いちばん時間をかけるのはサビのメロディー。鼻歌を歌いながら何パターンも作って、できるだけキャッチ―なものを選ぶようにしています。歌詞もわりとサクッと書いていますね。自分の経験というよりも作家的に書くことが多いし、歌詞よりも音を作るほうが好きなので」

 ファルセットを効果的に使ったボーカルもの音楽の特徴。そこには「心地よく聴かせたい」という意図があるようだ。

「洋楽っぽいサウンドの曲が多いので、それに合うように日本語の発音を崩すようにしていて。〈どうでもいいような 夜だけど〉(『NIGHT DANCER』)の歌い方もそうなんですが、母音を柔らかく歌うようにしていますね。それは桑田佳祐さん、松任谷由実さん、オリジナル・ラヴの田島貴男さんなどもやられてきたことだと思いますし、日本語のポップスにおけるスタンダードな歌い方なのかもしれないなと」

6月にはアジアツアーを開催し、11月には初のホールツアーも決定しているImaseさん(撮影/写真映像部・東川哲也、ヘアメイク/向井大輔)

■最大の武器は「普通の感覚」

「“プロのアーティスト”という感覚は今もあまりなくて。庶民感覚はぜんぜん抜けないですね(笑)」というimase。初めてのCDアルバムに『凡才』というタイトルを付けたことからもわかるように、彼の最大の武器はリスナーと同じ目線に立てる“普通の感覚”なのだと思う。

「音楽経験がまったくなくて、楽器も弾けないこともあって、“どうやったら曲を聴いてもらえるだろう?”と考えながら活動してきたんです。SNSに15秒くらいの短い曲をアップしたのもそう。たくさん投稿して、反応がよかったものをフル尺にするというやり方もですね。動画の撮り方や画角も工夫して、見られやすい、飽きづらい発信の仕方も考えて。それは“凡才なりの戦い方”だなと思うんですよね」

 6月にはアジアツアーを開催し、11月には初のホールツアーも決定するなど、活動のスケールも着実に拡大。「ライブに来てくれた方から“音楽をはじめました”と言われることもあって。うれしいですね」と下の世代にも大きな影響を与えているimase。リスナーに求められている楽曲を提示するマーケティング能力にも優れている彼だが、今後の活動については「失敗を恐れず、思い切ったこともやってみたい」という。

「初期の楽曲はかなり尖っていたなと思っているんですよね。たとえばメジャーデビュー曲の『Have a nice day』は、曲調は明るいんですが、サビを全部ファルセットで歌っていたり、けっこうネガティブな歌詞だったり。今は求められるものを作るスキルもクオリティも、その頃より成長したと思いますが、初期の頃にあった“棘”の部分も大切にしたいなと思っています。もちろんヒットさせたいし、いろんな方に聴いてほしいですが、ときには“三振かホームランか”思い切り振ることも必要。そういう曲は今後も作り続けたいですね」

(取材・文/森 朋之)

imase/岐⾩出⾝、23歳の新世代男性アーティスト。⾳楽活動開始からわずか1年ほどで、TikTokで楽曲が話題となり、2021年12⽉にメジャーデビュー。「NIGHT DANCER」は韓国配信サイト“Melon”でJ-POP初のTOP20⼊りを果たし、SpotifyバイラルチャートTOP50にも31カ国ランクインするなど世界各国で大ヒット中。「第65回輝く!⽇本レコード⼤賞」で優秀作品賞を受賞したほか、韓国で開催されたMMA 2023、CCMA 2023に⽇本⼈アーティストとして初出演、初受賞を果たすなど国内外で活躍している。2024年3⽉からは初の全国ツアー『imase Tour 2024 “Shiki”』を開催し、チケットは即完売。6⽉から初のアジアツアー、11月からは初のホールツアーの開催も決定している。5月15日に全19曲収録の1st Album『凡才』をリリースする。