国内男子ツアー(JGTO)の今季開幕戦、東建ホームメイトカップで初日、2日目と首位をキープし、最終成績で4位タイに入った早稲田大学3年生の中野麟太朗(なかの・りんたろう)。彼は今、世界アマランキングを上げようと必死で取り組んでいるが、必死にならくてはいけない背景には、日本ツアーの地位低下があるという。

全米アマ出場のため5月半ば時点で世界アマランク100位以内を目指す

 国内男子ツアー(JGTO)の今季開幕戦、東建ホームメイトカップで「史上8人目のアマチュア優勝なるか!?」と、大勢のファンを沸かせた早稲田大学3年生の中野麟太朗(20歳)。

 初日に「61」をマークして単独首位発進し、2日目も首位を維持。決勝2日間を最終組で回り、堂々たる戦いぶりを披露したが、残念ながら初優勝はかなわなかった。

早稲田のスクールカラー、臙脂のシャツを着て東建ホームメイトカップ最終日をプレーする中野麟太朗 写真:JGTOimages
早稲田のスクールカラー、臙脂のシャツを着て東建ホームメイトカップ最終日をプレーする中野麟太朗 写真:JGTOimages

 それでも「大人」のプロたちを押しのけての4位タイフィニッシュは実に見事だった。中野のゴルフや姿勢には、若さだけではない熱い「何か」が溢れていたように感じられた。

 よくよく聞いてみると、やはり彼は大きな目標を胸の中に秘めており、だからこそ一層の闘志を燃やしていることが分かった。

 今年、中野は自身の目標として「アジアパシフィックアマで優勝する」「アマのうちにレギュラーツアーで優勝してプロになる道をつくる」「(大学の)団体戦で日本一になる」という3つを掲げている。

 だが、彼の胸の中には、もう一つ、こんな秘めたる野望がある。

「世界アマチュアゴルフランキングで100位以内に入ることを目指しています」

 プロゴルフ界に世界ランキングがあるように、アマチュア界には世界アマチュアゴルフランキング(以下、世界アマランク)というものがある。

 東建ホームメイトカップ出場前の中野の世界アマランクは117位。ここ数年の彼の活躍や実績からすれば、少々首を傾げたくなるような位置付けだが、それでも中野は「東建で頑張れば、世界アマランク100位以内に入れる」と前を向いていた。

 なぜ、世界アマランク100位以内を目指しているのか。その答えは「全米アマに出場したいから」だそうだ。

 かつてタイガー・ウッズが3連覇(1994〜1996年)を果たし、世界中のゴルフファンを沸かせた全米アマは、米国のアマチュアゴルファーのナショナルチャンピオンを選び出す権威ある大会である。

 だが、近年は米国のみならず世界各国から挑戦者が押し寄せ、世界のアマチュアゴルフの頂点に輝く大会と化している。

 5月半ば時点で世界アマランク100位以内なら、全米アマの本戦から出場できる。トップ100入りを逃したとしても、地区予選あるいは最終予選に挑んだ上で本戦出場資格を獲得する道も、あると言えばある。だが、大学の授業やゴルフ部の活動にできる限り支障をきたさないようにと考えると、「全米アマは本戦から出場したい」。

 そのためには、5月半ば時点で世界アマランク100位以内につけている必要がある。それがダメでも、6月半ば時点でトップ100以内というセカンドチャンスもあるのだが、それらの期限までに残されている短い期間で117位を100位以内にアップさせ、100位以内をキープするのは、なかなか難しい状況にある。

 いや、もう少し正確に言うと、世界のゴルフ界が激動の時代に突入した2022年8月以降、日本のアマチュア選手が世界アマランクをアップさせることは、「それ以前より格段に難しくなってしまっている」と表現すべきである。

22年以降、日本人が世界アマランクで上位に近づくことは至難の業

 世界アマチュアゴルフランキング(WAGR)は、米欧双方のゴルフ総本山、USGAとR&Aが統括している。このランキングシステムに登録しているアマチュア選手は、あらかじめ対象とされている大会で収めた成績に応じて獲得したポイントに基づき、ランク付けされている。

 ポイント付与の対象となる大会は、世界ランキングの対象となっているすべてのプロの大会や各国のゴルフ連盟あるいは学生連盟が主催する大会の中でWAGRから指定されている大会だ。

 日本で言えば、日本ツアー(JGTO)の全大会、JGA主催の日本アマと日本学生、それに関東学生、関西学生といった学生連盟主催のいくつかの大会が対象となっている。

 しかし、22年8月にプロゴルフ界の世界ランキングのポイント配分等々が大幅に変更され、JGTOの大会で得られる基本ポイントがほぼ半減されてしまったことに伴い、アマチュアがJGTOの大会に出た場合に得られる世界アマランクのポイントも、それと連動して半減されてしまうという思わぬ影響を受けることになった。

「以前なら、JGTOの大会に出るだけで関東アマで優勝したぐらいのポイントが付いたんですけど、今はその半分か、それ以下しか付きません」とは、中野の父・恵太氏の言。

 東建ホームメイトカップ開幕前の世界アマランク117位を100位以内へ引き上げ、全米アマへの道を切り開くためには「優勝するか、最低でもトップ5ぐらいに入らなければ」。

 そんな厳しく高いハードルを中野は自身に課し、まさに背水の陣で臨んでいた。

 折しも、世界ランキングの大幅な見直しが行われた22年8月は、ちょうどサウジアラビアの潤沢なオイルマネーに支えられてリブゴルフが創設され、米国や世界のゴルフ界が大揺れを始めた時期と重なっている。

 さらにUSGAは、全米アマ最終予選の方式を「20年ぶりに大幅変更する」と発表。これまでは1日36ホールで行うことが同大会の伝統だったが、今年からは「18ホール×45カ所」と「18ホール×19カ所」の2段階に分ける新方式を打ち出した。

 そんなゴルフ界全体の激動期に遭遇し、その影響をまともに受けながらも、世界で活躍するプロゴルファーになるという未来図を思い描いている中野は、ある意味、厳しい巡り合わせに生まれついてしまったと言えそうである。

 これまでの日本人選手のアマチュア時代を振り返ると、12年には松山英樹、19年には金谷拓実、20年には中島啓太が世界アマランク1位に輝き、各々、その翌年にマーク・マコーミック・メダルを受賞した。彼らはみな、すばらしいゴルフを披露し、突出した成績を収めたからこその1位だったことは言うまでもない。

 しかし、世界のゴルフ界の激動が始まった22年以降は、日本人のアマチュア選手が世界アマランクで上位に近づくことは至難の業となりつつある。

 そして、その原因の一部が、日本ツアーに付与される世界ランキングのポイントの大幅低下にあるというのは、大きな驚きであり、その時代に生きるアマチュア選手たちが気の毒にさえ思えてくる。

 それならば、プロの大会ではなくアマチュアの大会で優勝するなり上位に入るなりしてポイントを稼げばいいのではないか?

 その通り、中野は昨年の日本アマで優勝し、日本学生2位、関東学生4位タイ、常陸宮杯では個人3位タイという立派な成績を収めた(注:関東学生の成績はJGAのミスにより、現状では世界アマランクに反映されておらず、現在JGAが対応中)。

「それでも世界アマランクは100位にも入れないのが現状です。プロの大会は、推薦を頂いて出場できても、上位入りできなければ、結果的にランクが下がる危険性もある。だから私などは、むしろ出ないほうがいいのではないかと思ってしまいます」

 そう心配するのは、父・恵太氏の親心だが、中野選手本人は「チャンスがあれば挑む」という信条を貫き、リスク覚悟で果敢に挑もうとしている。

 東建ホームメイトカップにも、そういう姿勢で臨み、4位タイに食い込んだ。この4位タイによって、彼の4月3日付けの世界アマランクは117位から93位へアップした。

せっかく入った100位以内だが米国の選手にすぐ抜かれる可能性も

 しかし、「トップ100入りだ!」と喜んでばかりはいられない。全米アマ出場が決まる5月半ば、あるいはラストチャンスとなる6月半ばまで、この100位以内を維持することは、これまた難しい。

身体的ハンデがあっても大成したジョン・ラームをお手本に花開きつつある中野麟太朗 写真:JGTOimages
身体的ハンデがあっても大成したジョン・ラームをお手本に花開きつつある中野麟太朗 写真:JGTOimages

 なぜなら、期限までに世界アマランクの対象となるアマチュアや学生の大会は、日本には一つもない一方で、米国のカレッジゴルフの大会は、ほぼすべてが対象とされているため、米国の大学生ゴルファーにあっという間に追い抜かされる可能性もある。

 それでも中野選手は「できることは何でもやる」という心積もりだ。

 今年1月末から5週間、ゴルフの向上と英語の習得のためにニュージーランドへ自主的に渡り、ニュージーランドオープンのたった1枠しかない予選会を見事に突破して本戦出場を果たしたのも、同大会が世界アマランクの対象大会だったからだ。

 今後、期限までに出場できるJGTOの大会にも「推薦がもらえたら、挑戦したい」。さらには、世界アマランクでトップ100圏外へ押し出されることも考慮し、この夏は全米アマ開催よりかなり前に渡米して、優勝すれば全米アマ出場資格が得られるアマチュア大会にチャレンジすることも計画中だ。

 そうやって、アゲンストの風の中で必死に前進しようとしている中野には、ときおり順風も吹いてくる。

 サラリーマンの父・恵太氏にとって、息子を自費で海外遠征させる経済的負担は多大だが、この春、中野は公益財団法人江副記念リクルート財団によるスポーツ部門現役奨学生に選ばれたため、これからは海外遠征費用が奨学金で賄えるようになった。

「いろいろ大変ですが、背水の陣のほうが、メンタルが鍛えられます。いつもギリギリの綱渡りですが、楽しくなってきました。頑張ります」

 道は自力で切り開く。そんな中野のこれからの歩みが、とても楽しみである。

文・舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

舩越園子(ゴルフジャーナリスト)