クラクションや警備員が注意をする場面も

 富士山が上に乗っているように見えるコンビニの写真が撮れるとしてSNSで話題となり、多くの外国人観光客が訪れ物議を醸しているのが「富士山ローソン」だ。21日には店舗のある山梨県富士河口湖町が黒い幕を設置すると発表した。近隣住民から苦情が寄せられたことなどから決定した対策。実施を翌日に控える現地を訪れた。(取材・文=関臨)

 午前10時すぎに富士急行線河口湖駅に到着すると、前日からの雨は上がり、時折晴れ間も見えた。駅前は西湖や本栖湖を通る周遊バスや、新宿駅などに向かう高速バスなど、それぞれのバス停に多くの外国人が列をなしていた。

 現在、問題となっているのは「ローソン河口湖駅前店」と「ローソン富士河口湖町役場前店」(同町)の2店舗周辺。前者は店舗の真上に富士山が見えることから、SNSで写真映えすると特に話題になっていた。

 河口湖駅を出て左手に進み、歩くこと5分。「ローソン河口湖駅前店」に到着するも、肝心の富士山は雲が覆いかぶさり、日中は見ることはできなかった。対策用のポールや柵が設置された向かいの歩道や、店舗の駐車場で写真撮影をする人もまばら。現場にいた警備員に話を聞くと「今日は富士山が見えないので人が全くいません。きれいに見える日には大型バスが続々とやってきますから」と直近の状況を説明した。

 店舗の前には比較的交通量の多い片側一車線の道路が通る。歩道は狭く、すれ違うのが精いっぱい。キャリーケースを持ってすれ違う場合は車道にはみ出してしまう状況だ。横断歩道は近くに2つ存在しているが、1つは押しボタン式の信号で、もう1つには歩行者用の信号は設置されていない。押しボタンに気が付かない観光客が赤信号で横断歩道を渡りクラクションを鳴らされる場面や、自転車に乗った観光客が車道上で撮影を行い、警備員から注意される様子も見られた。

 同じ通りで店を営む近隣住民はローソンが話題となったことで、この場所を通る人が増えたと話す。「店の指定外の敷地でたばこを吸って、そのままポイ捨てされることもありましたので、英語表記の看板を増やして対応しています」。対策を講じている場所も出てきているようだ。

 外国人観光客はこの場所をどう感じたのだろうか。三脚を持参し、熱心に写真撮影を行っていた香港出身の男性に話を聞くと、「インスタグラムやフェイスブックなどのSNSでも見たし、以前日本に来た友人からもこの場所をおすすめされたよ。生まれて20年間で初めて日本に来たから楽しみにしていたんだ」とこの地を訪れた理由を告白。明日から黒い幕が設置されることを伝えると驚いた表情を見せ、「今日は曇っていて残念だよ。少し不運だったね」と悲しげな表情を見せた。

 また、シンガポールから訪れた夫婦も富士山が見られなかったことは残念と語った上で、「とても良い場所だけど、良い写真を撮影するために、駐車場内を移動したり、道路に出たりしないといけないのは非常に危ないわね」と恐怖を感じると語った。

富士河口湖町、ローソンともに今後の対応を説明

 しかし、観光客が道路に飛び出し危険であることや、私有地侵入やごみのポイ捨てにより近隣住民から苦情が相次いだことで問題となり、同町は21日から黒い幕を設置することを発表。経緯について同町都市整備課の担当者は「今回が初めてではなく、これまでに警備員の配置や路上に看板を設置するなど対応はしてきました。しかし、状況が良い方向に向かなかったことで黒い幕を設置するに至りました」と答え、「『もう少し他の方法はなかったのか』や『危ないから対応してくれてよかった』などさまざまな意見をいただいています」と周囲の反応について説明した。

 またローソン広報部は「『ローソン河口湖駅前店』において、安全体制の強化を目的にこれまで本部社員を店舗に派遣するなどの対策を行ってまいりましたが、5月4日に新たに多言語表記による道路の横断禁止の簡易看板を設置致しました」と自社のこれまでの対応について回答した。

 ただ、今回の対応で問題が解決されるかは未知数だ。警備員は「自撮り棒を使用して幕の上から撮影する可能性もある。来る人数が減るかは分からない」と懸念する様子も。同町都市整備課の担当者は「設置後の状況を見て、現在考えている他の対策の実施など都度検討していきます」、ローソンは今後の対応について「駐車場や道路での撮影が危険であることや道路横断やゴミの放置の禁止など公衆マナー遵守の看板を多言語表記にて設置予定です。あわせて事故防止を目的に、警察や行政に相談の上、外部警備会社の専属警備員の配置を検討いたします」としている。関臨