ヤフー・オークションで手に入れた7万円のシトロエン・エグザンティアを、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部ウエダの自腹散財リポート。エグザンティアの生誕30周年を祝うイベント参加報告もそろそろ終盤。今回はパリ郊外にあるシトロエン博物館、“コンセルヴァトワール”の中ではなく、外で出会った珍しいクルマたちと、そのオーナーを紹介する。

純フランス産のミドシップ・スポーツカー

エグザンティアのなかでもとびきり複雑なサスペンション・システムを持つアクティバ。そのオーナーズ・クラブ、“アクティバ・クラブ”の面々に会うため、僕はシトロエン博物館の見学を後回しにし、駐車場へ向った。

駐車場に並ぶエグザンティアたちの半分くらいがアクティバだった。この薄いブルーのエグザンティアもその1台。後方に見えるのがセクマF16ターボ。

エグザンティア・アクティバがずらりと並ぶ列に添って歩いて行くと、その先にさっき見かけた小さな赤いスポーツカーがいた。後ろから見ただけでは、それが何なのか、まったく判別ができない。

前に回り込んでじっくりと眺めてみる。ヘッドライトの周囲の意匠は古のシトロエン・アミのようでもあるが、僕はまるで映画モンスターズ・インクに出てくる悪役、ランドールみたいだと思った。

セクマF16ターボは車体中央に224ps、30.6kgmを発揮する1.6リットル・ターボを搭載する。

ボンネットにはSECMAと書かれた楕円のエンブレムが付いている。さらに、その上下にはF16ターボというステッカーも貼られている。両者の間には「100% MADE IN FRANCE DEPUS 1974」という白地の文字も見える。

どうやらこの赤いスポーツカーは、フランスのセクマが手がけている2人乗りのミドシップ・スポーツカーのようだ。同社の公式ウェブサイトによれば、セクマは1995年にスタート。創業者ダニエル・ルナールが1974年に設立したERAD社という、マイクロカーの製造に携わったことが原点だという。

セクマ社前身、ERAD時代に製造されたマイクロカーたち。写真は仏セクマ社公式サイトより。

ウェブサイトには歴代の車両も掲載されており、起源はMGミジェットのレプリカ車、つまりかなりクラシカルなロードスターだったが、以降は路線を変更。MCCスマートの先駆けのような3輪や4輪のなかなかキュートなマイクロカーや、農作業用のトラックを手がけてきた。

驚いたことにダニエルはロータスの創始者、コリン・チャプマンとも関わりがあったらしい。

セクマはその後、オフロード用の4輪や6輪のファンカーの製造を経て、2008年に公道用のスポーツカーとして“F16”を発表。シャシーはパイプ・フレーム製で、ドライバーの背後にルノー製の1.6リットル直列4気筒ユニットと5段MTを搭載した2座のロードスターだった。車両重量はわずか560kgしかない(写真ギャラリー参照)。

このF16を基本とし、レトロなルックスと悪路走破性を高めたシャシー・セッティングを施した“ファン・バギー”、F16のパワーユニットをプジョー製の1.6リットル・ターボと6段MTへ置き換えると共に、スタイリングを一新した“F16ターボ”、そして最新作“F16ターボGT”、という計4つのモデルを現在生産している。

もっとも新しいF16ターボGTぐらいになると、イギリスのTVRのようではあるけれど、まだ理解のできる形状なのだが、それ以前のセクマ車、特に目の前にあるF16ターボは本当に不思議なスタイリングである(写真ギャラリー参照)。

車体のサイズはかなり小ぶりで、隣に並んでいる2代目の白いシトロエンC4がかなり大きく見えた。やはり公式ウェブサイトによれば、全長が3182mm、全幅が1735mm、全高が1165mmしかない。最終型のロータス・エリーゼよりも618mm短く、15mm幅広く、35mm高いといえば、そのサイズ感が分かるだろうか。

面白いのはマクラーレン720Sや750Sのような(かなり簡素な布製だけど)ルーフの中央とフロント・ガラスの左右付け根にリンクを持つ、着脱式のディヘドラル・ドアを備えていること。



この凝ったドアの造りを含め、インテリアの仕立てなど、2色のレザーが用いられておりなかなか豪華で、ちゃんとした量産車のレベルだ。かつてのイギリスのバックヤード・ビルダーのようなものではない。

ベリー・シンプル!

この赤いF16ターボのオーナーはYann Lecomte(ヤン・ルコント)さん。当日はパートナーと一緒にセクマでコンセルヴァトワールへやって来たが、かつては20年間エグザンティア・アクティバに乗っていたそうだ。



実は彼は、アクティバ・クラブの会計も担当しているという。おそらく僕がクラブ代表のThomas Beligne(トマ・ベリニエ)さんにコンタクトを取って、日本からやって来たことを知っていたのだろう。気を遣って英語で、クルマについて簡単に説明をしてくれた。

逆アリゲーター式のボンネットも開け、車体の構造も見せてくれる。ロータス・エリーゼと同じように、フロントにはラジエーターとバッテリーが配置されていた。ただしエリーゼとは異なり、燃料タンクも前側にあるため、中央に給油口が備わっている。

それでもホイールハウスとバルクヘッドの隙間には意外とスペースがあって、思ったよりもずっと荷物が載せられそうだ。車体のカバーとおぼしきものや、彼の衣類が収まっているのが見える。ステアリング・シャフトやサスペンション・アームへのアクセスも簡単で、整備性もなかなか悪くなさそうである。

ルコントさんはサーキット走行を楽しみたいと考え、さらなる軽さを求めてエグザンティア・アクティバからセクマに乗り換えたのだそうだ。なにせ彼のF16ターボの車両重量は、F16よりも重くなっているとはいえ670kgしかない。最高速は240km/hに達し、0-100km/h加速は4.8秒というパフォーマンスの持ち主である。「ベリー・シンプル! ノー・エレクトリック・アシスタント(笑)」と、丁寧にセクマについて教えてくれる。

そんな彼と、それを優しく見守るパートナーの笑顔は、なんとも心温まるものだった。それにしても、アクティバからセクマへの乗り換えとは。世界中を探しても、こんなレアなモデル同士でクルマの入れ替えをするような人は、まずいないだろう。

さて、ルコントさんにセクマを見せてもらった後、僕は歴代のエグザンティアの中でも、最もパワフルで、最も凝ったメカニズムを持つ貴重な1台にも遭遇することができた。そこで次回はこの、いわば“最強のエグザンティア”の同乗試乗の模様をお届けする。

文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部)

■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2023年3月時点までの支払い総額は234万6996円)
導入時期 2021年6月
走行距離 17万4088km(購入時15万8970km)

(ENGINE WEBオリジナル)