日本の超高齢化により、今は人生100年時代。親の相続が起こった時には自分自身も高齢となってしまうケースも多くなっています。大家族で同居などしていれば、相続関連の手続きの流れを話題にすることもあるかもしれませんが、いきなり自分自身に相続手続きをする必要が迫ってくることもあるのです。   今回は終活が必要な理由とどんな終活からはじめるといいのかをお話しします。

終活はだれでも必要だと理解しておきたい

終活をいつから始めるかというのは人それぞれですが、「終活が必要ない人」はいないといえるでしょう。
 
終活を考え始めるきっかけとしては、自分の身のまわりやきょうだい関係など、自分自身の経験からくることは多いですが、核家族も多くなっていますし、親族とのつながりが希薄であれば、そういう機会は少なくなっています。
 
ただ、親子の会話の中で、いきなり親に終活を勧めると、「縁起でもない」と怒らせてしまうことがあるのも事実です。「まだまだ若いし元気だから」「そんなにお金は持っていないし、どうせ相続税がかかるほどお金を持っていないし」など、終活をしない理由をあげられると、子どもとしては言い返すことはできないかもしれませんね。
 
本来は、会社員だろうが、専業主婦(夫)だろうが、年金暮らしの無職だろうが、立場にかかわらず、人が亡くなると相続の手続き自体は発生します。相続財産というと、ついついプラスの財産に意識が向きがちですが、相続財産とはマイナスの財産も含むということを、親子で認識をすり合わせておきましょう。
 
亡くなった場所が病院なら医療費の支払いも必要ですし、賃貸住宅に住んでいたなら家賃の支払いや水道光熱費などの支払いもあり、亡くなった後、自分でできない手続きが誰にでも起こり得るのです。こんな時のために、どこに何があるのか書いておく、支払いをする費用として信頼できる人に預かり金を預けておくなど、このようなささいなことも終活といえるのです。
 

元会社員だから自分のことはちゃんとしていると言われたら……

昔の60歳定年よりも、今は65歳定年と延期され、さらに70歳雇用が努力義務化されている時代ですから、親が高齢でも会社員で収入があるというのは珍しいことではありません。親自身の収入で生活が何とかまわっていると、相続のこともちゃんと考えてくれているだろうと、子どもからも口を挟むということはなかなかできないかもしれません。
 
ただ、国税庁が令和4年12月に公開した「令和3年分相続税の申告事績の概要」(※1)の「被相続人と課税対象数推移」を見ると2021年の被相続人は約144万人でそのうち相続税が課税されたのは、約13.4万人と9%を上回っており、課税対象者は着実に増加しているのです。
 
そんな中、令和6年には、不動産の登記義務化や相続税、贈与税の改正など、これまでおろそかにしてきたことが「義務になる」という改正が目白押しです。親の世代では、単に「110万円までなら贈与できる」と思っていたかもしれませんが、生前贈与のルールも変わります。
 
これまで相続発生3年前までの生前贈与が相続財産に加算されていましたが、この数字が7年に改正されます。具体的な例は、国税庁のホームページ(※2)で確認してください。
 
相続対策といいつつ、贈与税の改正を知らないことで相続税が多くなるという事例も今後出てくるかもしれません。会社員で現役バリバリで働いている(いた)ことと、相続もしっかり考えているということは、イコールではないのです。
 
【図表1】

図表1

 

親に勧めたい終活の始め方とは

親に「そろそろ終活をしていけば」と直接話すのではなく、親がもっとも不安に思っていることは何か、という質問から始めてみましょう。
 
「夫が亡くなると口座が凍結されることは知っている?」「自分が認知症になった時にお金の管理はできる?」「自宅が老朽化した時に家はどうする?」など、会話の中で不安のポイントがどこにあるのかを突き止めていくのです。
 
さらに、一緒の時間が取れるのであれば、エンディングノートの記入を促してみましょう。今は、無料で配布している自治体もたくさんあります。例えば、横浜市西区ではエンディングノートが配布されています。
 
下記は、横浜市西区版エンディングノート「ウエスト・ライフストーリー〜わたしの美望録〜」です。相続人や大切なもの、お願い事など、家族でも知っているかどうか、知っていても実は違う思いがあるというのは、図表2のように書いてみるとイメージがはっきりするものです。
 
【図表2】

図表2

 
「終活」という言葉は「終わり」と思えるかもしれませんが、子どものほうからも「エンディングノートを一緒に書いて整理してみよう」「どんな老人ホームがあるのか見学(もしくは昼食を食べに行ってみよう)」など、一緒に体験することで、親サイドも「縁起でもない」から「せっかくだから一緒に体験してみよう」と、大切なことだからやるべきだという意識に変わるきっかけになると良いですね。
 

出典

(※1)国税庁 令和3年分 相続税の申告事績の概要
(※2)国税庁 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
横浜市西区 西区版エンディングストーリーについて
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。