■今後の見通し



2. 中長期の成長戦略

コロナ禍を機にDXが進み、企業は引き続き働き方改革や新しい環境での競争力強化を図るためDXを推進している。また、2022年1月にリモートワークやペーパーレスを後押しする改正電子帳簿保存法が施行され、企業間取引に関する文書の電子化も急激に進展した。ウイングアーク1st<4432>は、このような市場の大きな変化をチャンスと捉え、2022年1月に5ヶ年の「中期経営方針」を発表した。「企業のDXを推し進めるデータプラットフォームの実現」を柱に据え、主にクラウドビジネスでの大きな成長を目指す計画である。



「中期経営方針」の最終年度となる2027年2月期までの目標は、「クラウド成長率40%(2022年2月期〜2027年2月期平均)」「リカーリング比率75%」「クラウド比率40%」「EBITDA120億円」である。



具体的な取り組みは、(1) クラウドビジネスの拡大、(2) リカーリングビジネスの拡大、(3) グループ経営基盤の強化である。



(1) クラウドビジネスの拡大

企業のDXへの取り組みが広がるなか、迅速な導入が可能で初期コストが低く、ほかのシステムとの連携が容易なクラウドサービスの市場は拡大している。現在の同社グループの売上収益の大半はソフトウェアから生み出されているが、同社は「中期経営方針」でクラウドをベースとした「企業のDXを推し進めるデータプラットフォームの実現」を掲げた。2022年2月期から2027年2月期のクラウド売上の年平均成長率40%及び2027年2月期の全社売上に占めるクラウド売上比率40%を目標としている。



・開発体制の強化

同社グループでは、クラウドサービスに関する継続的な新機能の開発や性能向上のため、開発体制の強化を進めている一方で、優秀なエンジニアの獲得はますます難しい状況になっている。最先端技術への積極的な取り組みや働き方改革を進め、エンジニアにとって魅力的な環境を提供するとともに、外部リソースも活用し、柔軟な開発体制を構築する考えである。



・アライアンスの推進

同社グループが提供するクラウドサービスは、同社グループのみがサービスを提供するのではなく、様々な特徴を持つ企業と密に連携することで、スピーディに包括的なサービスを提供することを目指している。今後もサービスレベル向上のため、様々な企業との連携を行っていく考えである。



(2) リカーリングビジネスの拡大

同社グループは、「リカーリングビジネス」を推進している。「リカーリングビジネス」の利点は、業績の安定化、業績の予見性の向上、顧客とのリレーションシップの維持などであるが、顧客の維持管理コストの増加といったデメリットもある。そのため、同社は「リカーリングビジネス」に特化した部署を組織し、離脱防止対策を行うとともに、顧客への追加商材の提案による売上の向上を目指している。今後も売上の拡大とともに当該比率の向上を目指す考えである。



・保守契約継続率の維持向上

「リカーリングビジネス」は、一度契約した顧客にいかに継続的に利用してもらうかが最も重要となるため、同社グループでは、「保守契約継続率」をKPIとしている。そして、専門部署にて顧客の利用状況や課題をヒアリングし、きめ細かな対応を行うことにより、KPIの維持向上に努めている。なお、2024年2月期における「保守契約継続率」は94.0%であり、高位で安定している。



(3) グループ経営基盤の強化

同社グループは2013年9月の非上場化以来、経営基盤の強化に取り組み、グループの再編(子会社の統合、非コア事業の売却)、社内基幹システムの再構築、経営管理システムの高度化、各種顧客管理業務のシステム化などを推し進めてきた。「中期経営方針」の目標達成に向け、クラウドサービスの立ち上げや強化を行う計画で、精緻な業績管理が求められる。また、業容拡大を目的としてM&Aで獲得した海外を含む子会社についても、一体となった管理体制が求められる。同社グループはこれに対応すべく社内のDXを推し進め、グループ各社の経営状況をタイムリーに把握することで、適切な対策を早期に打てる体制の強化に取り組む。



(4) 「中期経営方針」2期目の実績と3期目の計画

「中期経営方針」2期目の2024年2月期はクラウド成長率が36.4%、リカーリング比率が61.8%、EBITDAが85.9億円となった。3期目となる2025年2月期においてはクラウド成長率25.8%、リカーリング比率65.0%、EBITDA94.7億円を計画しており、最終年度に向かって着実に実績を積み上げる計画である。



また、戦略投資については当初3ヶ年で55億円の投下を計画していたが、2025年2月期は17.5億円の投下を計画し、3ヶ年累計で52.1億円となる見通しである。今後も同程度の投資が行われる予定であるが、状況次第では公共領域拡大のための投資がある可能性がある。地方自治体により電子化には濃淡があるため、見極めたいのだと思われる。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 井上 康)