ランコ・ポポヴィッチ監督が指揮を執る鹿島アントラーズは、ここまで明治安田J1リーグにおいて2勝1分1敗で4位につける。無冠が続く鹿島に新たな哲学を浸透させようとするセルビア人指揮官は、大卒ルーキー濃野公人が持つスペシャリティを称賛している。(取材・文:ショーン・キャロル)

●不遇の5年間を経て鹿島アントラーズが変わった!?

 茨城で何かがうごめいているような気がしてきた人はいないだろうか?

 鹿島アントラーズは長い間、Jリーグで不動の地位を築き、あらゆる強敵をなぎ倒し、20年もの間、Jリーグを支配してきた。

 1996年から2016年にかけてアントラーズは8度のJ1優勝を果たし、トップリーグで最も成功したチームとしての地位を確立した。その過程で、天皇杯を5回、リーグカップを6回獲得したほか、国内3冠を達成した初のクラブ(2000年)、3シーズン連続でJ1王者に輝いた唯一のクラブ(2007〜09年)となった。

 しかし、2018年にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で初優勝し、アジアの頂点に立った後、ジーコやオズワルド・オリヴェイラ、そして小笠原らがけん引してきたクラブは銀色のシャーレに手が届かず、鹿島は不遇の5年間を過ごすことになる。

 3月17日のインターナショナルブレイク前最後の試合で鹿島は川崎フロンターレを2-1で下している。まるで何かが湧き出るかのような力強いパフォーマンスを鹿島からは感じることができた。

 カシマサッカースタジアムでは、試合開始のホイッスルが吹かれた瞬間から、鹿島の選手とファンの間にエネルギーがみなぎり、鹿島は自分たちの意思を前面に押し出して川崎の息の根を止めようとした。ランコ・ポポヴィッチ監督は試合前から、いつもと違うことに気づいていたようだ。

●「涙があふれる…」取り戻した鹿島アントラーズの「信念」

「今日、スタジアムに入る前にファンの姿を見て鳥肌が立ちました。彼らの情熱と愛情を感じて、涙があふれてくるのを感じたよ」

 その熱量はあらゆる場面でホームチームを後押しした。安西幸輝と濃野公人が何度もサイドを駆け上がってチームをプッシュし、チャヴリッチ、鈴木優磨、名古新太郎が前線からプレッシングをかけ、川崎に一息つく暇を与えなかった。

 川崎の鬼木達監督は敗戦後、「一番残念だったのは、自分たちの戦いを最後までできなかったこと。自分たちのゲームに持っていけなかったこと。それが一番悔やまれます」

 実際、川崎は36分にマルシーニョのゴールが生まれて1-0で試合を折り返したものの、川崎は常に試合の足場を固めるのに苦労しているように見えた。そして、47分にチャヴリッチ、50分に鈴木が立て続けにゴールを決め、鹿島は後半開始わずか5分で逆転に成功している。

 ピッチで自分たちのスタイルを貫きたいという願望を持っていた川崎のフリックやクッションパスは、鹿島の尽きることのないアグレッシブなプレーによってことごとく阻まれた。ホームの選手たちは飛び回るように走って川崎のリズムを破壊した。アウェイチームのパス成功数は90分でわずか348本で、2節前のジュビロ磐田戦(728本)を400本近く下回っていた。

 開幕戦でも鹿島は同じようなパターンで長谷川健太監督が率いる名古屋グランパスを圧倒した。豊田スタジアムで3-0の大勝を収め、ポポヴィッチ政権の幕開けを飾った。

 セレッソ大阪戦では1-1の引き分けに終わり、序盤戦のサプライズ的存在のFC町田ゼルビア戦には1-0の悔しい敗戦を喫し、その勢いは少し落ち着いたようにも見えたが、彼らが貫いた姿勢は素晴らしかった。川崎戦で勝ち点3を取るために見せた粘り強い戦いぶりは、かつての鹿島が見せた信念を思い出させるものだった。

 ポポヴィッチ監督は、ここまでの選手たちの活躍に勇気づけられつつも、浮かれることはない。最高の状態になるのはまだまだ先だと言う。川崎に勝利した後に、指揮官はこう語った。

●「私の哲学は…」「ビッグクラブ=ビッグチームではない」

「選手たちに自分の個性を浸透させるには、このチームを長く率いらなければならない。ボタンを押して『OK。今やろう』というのは簡単ではない」

「私は町田戦で彼らに、セットプレーに集中していたことは素晴らしかったが、何かを生み出すことにも力を注がなければいけなかったと伝えた」

「私たちは“リアクション”に終始していた。私の哲学は “リアクション”ではなく、アクション、アクション、そしてまたアクションするんだ。相手に自分のことを考えるように仕向けるんだ」

 長い間、鹿島はトロフィーを棚に追加することができなかった。選手たちにはチャンピオンになるために必要な信念を形成する必要があると、セルビア人監督は認識している。

「彼らの多くは、このような状況に立ったことがない。(タイトルを)獲得することがどのようなことなのかを知らない。ビッグクラブ=ビッグチームではない。チームをそのレベルにするためには、取り組むべきことがある」

「もちろん、私たちはタイトルを欲している。『望んでいる』が、『できる』かどうかを意識する必要がある。私たちにできるのは、やってみること。日々実行し、努力する。これを念頭に置くことです。今年がだめなら、来年に向けて準備をする必要があります」

 ポポヴィッチ監督は、その目標を達成するために自由に使える人材に満足しており、チームにとって特別な存在である鈴木を絶賛した。

●鈴木優磨、柴崎岳、……。ポポヴィッチ監督が称賛する3人目のスター「匂いを嗅ぎ取れる。プレーして楽しむんだ」

「優磨はアルゼンチン人かかつてのユーゴスラビア人選手のようだ。すごいよ! 何にでも勝ちたがる。彼はかつての日本人だ。まるで恐竜。この新しい時代に優磨という選手がチームにいるのは光栄だ」

「そして私たちは(柴崎)岳を待っている。信じてください……。岳は本当に素晴らしい選手のひとりだ。僕はいい選手とプレーしたし、世界最高の選手とも対戦した。でも、岳のボールタッチを見たときに(よだれを垂らす素振りを見せながら)『おお、なんてすごいんだ』って(思った)」

 この2人のスター選手と同じように、ポポヴィッチ監督は、関西学院大学から加入した濃野が、プロの試合に素早く適応していることにも興奮している。

「濃野はまだ若いが、濃野はゲームを感じ取れる。彼は“センス”のある選手だよ。彼はゲームの匂いを嗅ぎ取れるんだ。そういう選手はダイヤモンドのようなものだ。もし私が彼に『ダメだ、こうしなければならない』と言ったら、彼にとってはあまり良くないかもしれない。いやいや、プレーしろ! プレーするんだ。プレーして楽しむんだ」

 人材は揃っている。これから1カ月半、鹿島は比較的優しいスケジュールをこなし、J1のトップランナーの一角に返り咲く可能性があるだろう。

(取材・文:ショーン・キャロル)

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