VfBシュトゥットガルトでプレーした元サッカー日本代表DF酒井高徳と同クラブで指導者や通訳を歴任した河岸貴氏。両者の親交は10年以上も続き、現在でもフットボール談義を長時間交わす間柄だという。今回は、シーズン開幕前に行われた両者の対談の一部を抜粋してお届けする。(取材:Footballcoach、構成:編集部)
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【動画で見る】スペースを守ってもやられる!? / 「守る守備」から「攻める守備」へ / リベリ・ロッベンを抑える大前提

●リベリー対策は「蓋をする」。日本でのやり方が「無力だと気付いた」

 7年半に渡り、ドイツでプレーした酒井高徳は、ブンデスリーガでバイエルン・ミュンヘンなどの強豪とも対戦している。VfBシュトゥットガルトのトップチームで指導者や通訳などを務め、酒井とも同時期に在籍した河岸貴氏は、酒井がかつて対峙したフランク・リベリーやアリエン・ロッベンへの対応について尋ねた。

 まず大前提として酒井が挙げたのはチーム全体がボールにオリエンテーションしているか。「BoS理論」の軸ともいえるこの連動がなければ、世界のトップで活躍している選手を抑えることはできない。その前提をふまえたうえで、酒井はリベリーを抑えるための対応を回想した。

「リベリーはパスもできるし、シュートもできる。ドリブルもできるし、身体も強いし速い。どうしたらいいのか2回、3回やって本当に思ったのは、正直ちょっと自分の場所じゃないところは無視しました」

 ただ、ボールを入れさせないようにタイトにマークしていたとしても、裏に出されてしまうと負けてしまう。酒井は「ボールが入ったときに(リベリーが)後ろを向くような距離感で常にやっていた」という。「ボールにうまくオリエンテーションしていたら、(相手SBに)オーバーラップされても絶対にCBが(カバーに)いるから」と言い、「ボールが入ったときに蓋をする」ように守っていた。

「日本にいたときはグループでスペースを守っていたらやられないと思っていた。でもそうじゃない。その人で解決できる選手がいたとき、それが無力だということに気づいたので、その人が自由にできないようにするしかない」

 それでも完璧に封じることは難しかったと酒井は言うが、世界最高峰の選手への対応の仕方を学んだという。そして、酒井はそもそもの「プレッシング」という言葉が指すものについても言及する。

●プレッシングは“繊細”。酒井高徳が見たポステコグルーのフィロソフィー

 酒井は「プレッシャーとはこうだ」と具体的に定義することが難しいと話す。シチュエーションごとに導き出されるアクションの最適解は異なるという前提の上で、プレッシャーの「繊細さ」を指摘する。

「ボールをプレッシングしてチーム全体で奪う中でも、限定の仕方や選手との距離感、奪い方、ファウルしない…もっと言ったら奪う定義が人によって違う。俺の中で奪うっていうのは、ボールがその選手から味方に渡ったら、もう奪ったことになっているんです」

 プレッシングの1つの要素として「アグレッシブさ」があることを酒井は認めつつも、ただ闇雲に突っ込んでいく、激しく寄せることだけがプレッシングではない。ボールを奪うためにコースを限定したり、抜かれないような位置を取ること必要な場面もあり、「100%(の勢い)でいかなくても、相手のボールを突くだけなら30%くらいの力でいけるときもある」と言う。大事なことはチーム全体が連動してボールを奪うことであり、そのための個々の瞬時の判断を酒井は「緻密」と表現する。

 そのうえで酒井は「その(判断の)レベルと自己解決能力が高いチームほどプレッシングが素晴らしい」と言い、リバプールやマンチェスター・シティ、かつてのボルシア・ドルトムント、現在のトッテナムを挙げた。トッテナムを率いるアンジェ・ポステコグルー監督については「プレッシングの要素みたいなのが結構詰まっている」

(取材:Footballcoach、構成:編集部)

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