●ドリブラーには2つのタイプがある。三笘薫を分析すると…

ブライトンに所属する三笘薫はプレミアリーグでも圧倒的な存在感を放つ。Jリーグやサッカー日本代表だけでなく、世界最高峰の舞台でもドリブルという唯一無二の武器で相手に襲い掛かる。三笘と同じく、ドリブルを武器に欧州でも活躍した松井大輔氏は、三笘のドリブルをどう分析するのか。(分析:松井大輔、構成:川原宏樹)
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 以前にも話しましたが、ドリブルに関していえば三笘薫は頭ひとつ抜けています。世界最高峰といわれるリーグでも、特にインテンシティが高いといわれるプレミアリーグで活躍している実績が、その証明のひとつといえます。

 ですが、僕がそう主張する理由は別にあります。

 ひとえにドリブラーといってもさまざまなタイプの選手がいますが、二分すると論理的なタイプと感覚的なタイプになると思います。論理的なタイプは得意とする型を持っており、相手との距離や立ち位置、ボールの運び方など、考え抜かれたロジックに基づいて判断をしています。一方、感覚的なタイプは瞬間的なインスピレーションに基づいていて、決まった型のようなものはないためイマジネーションが豊かと評されることが多いです。

 古今東西を見渡しても、その2タイプが混在する選手はなかなかいません。しかし、三笘はその両方を持ち合わせているミックスタイプです。ある状況に相手を追い込めば必ず抜けるというロジックを確立していますし、感性に従ったファンタジックなドリブルを見せることもあります。こういったミックスタイプは、やはり世界でも稀な存在です。だから、ドリブラーとして頭ひとつ抜けていると称賛しているのです。

 それでは三笘がどのようなロジックを持っているか説明していきたいと思います。

●三笘薫は「プレ動作」が他の選手と違う

 三笘の身体的特長のひとつにアジリティが挙げられます。初速が速いので、短い距離であれば大半の選手より先に行くことができます。極端にいうと、横に並んでしまえば相手を抜き去れる力を持っていますし、足を止めた状態から競っても勝てるのです。普通は足が止まった状態から抜き去るのは難しいので、相手との距離を詰めるまでにスピードに乗ろうとします。しかし、三笘が仕掛けるときはそのようなプレ動作を必要としません。それを十分に理解している三笘が仕掛けるときは、相手との立ち位置を重要視しています。

 三笘は相手との立ち位置がこうなれば縦方向へ抜け出せるという自信を持っており、細かくいうと距離感、角度、相手の体の向きなどから判断しています。先に、仕掛けるプレ動作として普通は相手との距離を詰めると同時にスピードに乗ると説明しましたが、あえて三笘のプレ動作を挙げるとすると、相手の立ち位置を誘導することになります。自分が勝てると考えられる立ち位置まで相手を誘導するために、ボールを動かしながら相手も動かすのです。

 2月18日に行われたプレミアリーグ第25節シェフィールド・ユナイテッド戦でも、そのロジックがわかるシーンがありました。(3:00〜)左サイドでボールを受けて、1対2の状況になります。三笘はサイドステップを繰り返しながらゴールライン方向へ移動。右のアウトサイドでボールを少し大きく動かすと、相手の1人が大きく右に釣り出されました。そこが誘導したかった相手の立ち位置になります。誘導できたことを確認した三笘は素早く右インサイドで切り返し、ゴールライン際へと抜け出したのです。

 この立ち位置は対峙する相手によって微調整されます。なかには、三笘と同等のアジリティを持つDFもいます。だから、試合中に相手との速度差を測るようなプレーを見せることもあります。試合序盤に縦方向へ抜け出してみて、相手が追いつき再び切り返すといったシーンです。そういったプレーで相手を測っているのです。追いついてきた相手であれば、次に仕掛けるときには立ち位置を修正して仕掛けることでしょう。

 もうひとつのポイントは、距離になります。初速が速い三笘とはいえ、相手との差が生じるまでにはある程度の距離を有します。

●「必要な距離を確保する動き」三笘薫が特徴を発揮する条件とは…

 同じくシェフィールド・ユナイテッド戦(3:40〜)になりますが、逆サイドからのクロスが流れたこぼれ球を左コーナー付近で拾った三笘が1対1の局面を迎えます。ゴール前の様子を探りながら、徐々にボールを右へ運びます。ゴールラインから距離をとりながら、小刻みなボディーフェイクなどを駆使して相手を立ち位置へ誘導。そこから縦方向へ抜け出してクロスを入れています。

 要するに、相手をかわして左足でクロスを入れるのに必要となる距離の分だけ、ゴールラインから離れたのです。いいかえると、これが三笘が縦へ抜け出すために必要な距離になります。もちろん、立ち位置と同じで対峙する相手によって微調整はされることでしょう。

 ここまで三笘のドリブルを構成する重要なファクターとして、相手の立ち位置と抜け出す距離の2つをピックアップしました。この2つから導き出せる三笘の特徴があります。それは、三笘には得意とするプレーエリアがあるということです。

 その答えは、みなさんがご存知のとおり左サイドのペナルティーエリア角付近になります。相手との速度差、相手との距離差をつくるためのスペース、タッチラインやゴールラインとの距離、そういったさまざまな条件から逆算すると、三笘が相手と対峙する状況をつくりやすく、かつそのデュエルに勝てる状況をつくりやすいエリアがそこになるのです。だから、三笘がそのエリアでボールを受けたときには期待してください。きっと、素晴らしいプレーを見せてくれることでしょう。

(分析:松井大輔、構成:川原宏樹)

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