『星への旅』で太宰治賞を、『戦艦武蔵』や『関東大震災』で菊池寛賞を受賞した吉村昭と、『玩具』で芥川賞を受賞した津村節子。小説家夫婦である2人は、どのようにして結ばれ人生を共に歩んだのか、そして吉村を見送った後の津村の思いとは。今回は、小説家2人が夫婦生活を続けられた秘訣ついてご紹介します。

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口達者な小説家夫婦だった

「若い頃は、夫婦ゲンカとかいろいろあって大変だったようですが、30代、40代と年を重ねて、二人とも大人になって落着いていったんじゃないでしょうか」

と司(長男、吉村司)は両親の歴史を振り返る。

井の頭公園のそばに終の棲家を建てたのは吉村が42歳のときで、その頃には収入も安定し、暴力沙汰のケンカにまでは至っていない。

言いくるめて結婚したほどだから、吉村は口は達者。津村も負けてはいない。ああ言えばこう言うという口ゲンカに変わっていったが、それも次第に減っていった。

そのあたりのことは吉村が書いている。

〈男と女が全くちがった種属であることに漸く気づいたのは、最近になってからである。同じ人類には違いないが、霊長目オトコ科、霊長目オンナ科とわけられるべきであろう。