漫画『ハッピー・マニア』で人気を博し、その後の作品『シュガシュガルーン』では第29回講談社漫画賞を受賞するなど、数々の名作を生み出している、漫画家・安野モヨコさん。そして、安野さんのパートナーはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明さん。このクリエイティブなご夫婦は一体どんな生活を送っているのでしょうか。安野さんは、夫のある行動を知り「最初はドン引きしたし、なんなら結婚を後悔した」そうで――。

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お風呂おじさん

著書「監督不行届」のなかに風呂場でウルトラマンごっこをする監督の描写がある。

一応コミックスの最初に「この物語はフィクションです」などと銘打ってあるが
何を隠そうあの部分に関しては事実である。
まあ、全く隠せてないけど。
もちろん他に人がいるような場所ではご迷惑をかけるのでやらない。
「今大浴場に誰もいなかったからウルトラマンごっこしてきた」
頭からほかほかと湯気を出しながら部屋に帰った監督から
報告を受けたのが最初だったように思うが、程なく実際に目にすることになった。

「浴槽におけるウルトラマンごっこ」は
広く浅めの浴槽かプールというロケーションが整ったときにのみ発生する事案である。

水着を着て入る温泉スパで寒い時期だったために貸切状態になった時や
個室露天風呂が思いのほか広々していた時などに

湯煙の向こうでドシャーンバシャーン、ザザザ…と音がして
ふとみると1人で戦っているおじさんがいる。

もちろん私に見せるためではない。
本気で自分1人で記憶通りに再現してみている、といった方が近い。
最初はドン引きしたしなんなら結婚を後悔したものだが
慣れてくると「今日も元気でよかったね」という気持ちで部屋の中からビールの入ったグラスを傾ける。
するとそれを目視で確認、軽く頷いてまた自分の世界へと没入。
というのが大体の流れである。