今年は日経平均株価の「バブル越え」が大きな話題になりました。

いわゆる「バブル期」と呼ばれる時代は、日本が空前絶後の好景気を享受して誰しもが高給取りになり、ディスコへ行けばミニスカートのお姉さんがお立ち台で扇子を振っていた……と語られがちですが、それは全くの誤解です。バブル期只中の人は、「今はバブル経済」という自覚は一切ありません。また、筆者の家庭がそうだったように公務員にはバブルの恩恵は殆どなく(その代わり90年代の不景気の時でも失業しませんでした)、さらに言えば「お立ち台」で知られたジュリアナ東京の開業はバブル崩壊後。

令和の日本人の「バブル観」というのはかなりの誤解が含まれています。ですが、当時の日本の輸出はアメリカを圧倒するほどに絶好調だったという事実もあります。

今回はプロジェクトEGGが配信するPCレトロゲーム『ジャパンバッシング』をプレイしながら、バブル前後の日本の様子を振り返っていきたいと思います。

「日米貿易摩擦」をテーマにしたゲーム
『ジャパンバッシング』は、非常に風変わりなコンセプトのゲームです。

プレイヤーはアメリカの対日外交担当者となり、当時顕著化していた貿易摩擦是正のために様々な交渉を仕掛けるという内容です。今の若者にはピンと来ないかもしれませんが、80年代はメイド・イン・ジャパンの製品が津波のようにアメリカへ輸出されていました。自動車は今でも日本メーカーが強さを発揮していますが、当時は半導体も日本のお家芸。あまりに日本メーカーの半導体がシェアを占め過ぎていたため、日米の外交問題に発展してしまったことも。

「日本の混合肥料分野は法律などにより自由競争が制限されている。これは大問題であろう」
『ジャパンバッシング』に登場する米側からのこの問題提起は「日本は工業製品の輸出で荒稼ぎしているのだから、農業分野を自由化してくれないと不公平じゃないか!」という米政府の叫びでもあります。

このように、貿易摩擦を少しでも是正して米側に少しでも有利な条件に持ち込むのが『ジャパンバッシング』の目的です。

懐かしい人々が登場
『ジャパンバッシング』のスタート時期は1980年。当時の世界情勢がテレビニュースで報道される演出もあります。

たとえば、イギリスとアルゼンチンの間で勃発したフォークランド紛争。日本の真裏、南極に近い南大西洋にあるフォークランド諸島を巡って、イギリスとアルゼンチンが一戦交えた出来事です。フランス製のエグゾセ対艦ミサイルがイギリスの最新鋭艦を1発で沈めた出来事は、世界に衝撃を与えました。

『ジャパンバッシング』には、懐かしい人々の名前も出てきます。ゲームの序盤、アメリカでは大統領がロナルド・レーガンに代替わりします。ソビエト連邦(ロシアじゃないですよ!)でも書記長がユーリ・アンドロポフになりますが、この人は当初から健康状態が優れず、書記長就任から2年も経たないうちに亡くなります。

そうした世界情勢を背景にしながら、アメリカ国内では日本に対する不満が噴出します。

「日本人は主食を小麦にすればいいんだ。そうすれば島国根性が抜けるだろう」
とんでもない要求も時たま出てきますが、ここは自由と民主主義の国アメリカ。市民の声を無視するわけにはいきません。

こうしたケレン味を含みつつも、『ジャパンバッシング』はかなりリアルな国際外交シムとして完成されています。

日本製が最高だった時代
この時代の日米関係について解説する時、筆者がよく引き合いに出すのが映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下、BTTF)」です。

主人公の高校生マーティ・マクフライは、カリフォルニア州の都市に住む高校生。彼の身の回りには、メイド・イン・ジャパンの製品に溢れています。時計はカシオ、学校にあるドラムはヤマハ、そしてマーティが憧れる車はトヨタです。また「BTTF3」では「日本製の部品は劣悪」と思っている1955年のドクに向けて、マーティがこんな発言をするシーンがあります。

「何言ってんの? 日本製が最高なんだぜ」
それほどに80年代のアメリカの若者は、日本製品に普段から接していたということでもあります。

「いずれ、アメリカは日本に呑み込まれてしまうのではないか?」。そんなことを本気で心配する人もいましたが、『ジャパンバッシング』をプレイするとその憂いはあながち的外れではないということも理解できます。

「アメリカの悩み」も描写
『ジャパンバッシング』は、今につながる「アメリカの悩み」もくっきり描写されています。工業分野に脆弱性があり、五大湖周辺の工業地帯は今や「ラストベルト(銹錆地帯)」と呼ばれてしまっています。この工業分野の問題をどう解決するのかが、アメリカ大統領選挙の争点にもなります。

そうした国際情勢を知るためにも『ジャパンバッシング』は素晴らしい教材になるはずです。