Photo: Sergiy Romanyuk (Shutterstock)|プリピャチの野犬は何思う

2023年3月10日の記事を編集して再掲載しています。

寿命は1〜3年。

1986年、世紀の原子炉爆発が起こって数十時間後、人間は救援バス1,200台以上に乗って避難しましたが、あとに残された犬たちは放射能をまともに浴びながらも群れを成し、野犬化してここまで生き延びてきました。

その今を捉えたドキュメンタリー「The Dogs of Chernobyl(チェルノブイリの犬)」がYouTubeに公開されて270万回以上も再生されるなか、「原子力発電所の半径30km圏内のチェルノブイリ立入禁止区域で育った犬はDNAが世界のどの地域の犬とも違う」という鑑定結果が米サウスカロライナ大学からScience Advancesに発表され、問題の根深さを浮き彫りにしています。

チェルノブイリの犬は5つの遺伝子ファミリーが存在

同大学では2017年から獣医さんや動物愛護クリニックと共同でチェルノブイリ原子力発電所近辺の犬の検査、予防接種、避妊・去勢手術をするチェルノブイリの犬研究事業を進めており、血液を採取してDNAを解析する作業もその一環で行なったもの。

解析結果を世界中の犬の遺伝子と比べてみたところ違いは歴然で、37年前の死の灰を生き延びた犬の子孫と結論付けるのに十分なものだったといいます。また、調査では禁止区域内の犬同士でも差異があることも判明しました。

論文主種著者のGabriella Spatolaさんは米国立ヒトゲノム研究所がん遺伝子・比較ゲノム部門のポスドク課程のフェロー。

米Gizmodoからの取材に対し、

チェルノブイリ立入禁止区域の犬は、原発のある工業地帯に生息する群れと、現場から約15km離れた住宅街(チェルノブイリシティと呼ばれる)に生息する犬のふたつに大分されます。

とコメント。

調査では計5つの遺伝子ファミリーが見つかったのですが、移住や交配も盛んで、最大勢力のファミリーにいたっては調査対象区域すべてで生息が確認されたのだといいます。

なかには純血が保たれている犬種もあって、特にシェパードのような犬種はその傾向が顕著でした。

犬のような大型哺乳類を含めた遺伝子研究は著者が知る限りこれが初めてとのこと。

身体に与える影響まではまだ調べていないので、それが今後の課題です。

チェルノブイリの犬の群れは、人間と密接に関わる群れに放射能が長期に渡っておよぼす影響を調べるまたとない対象です。

原発事故は避けようもなく起こっていくでしょうし、家畜への影響調査で得られる情報は、今後に備えるうえで貴重な知見となるでしょう。

とSpatolaさんは意欲を燃やしています。

以上が原文の記事なのですが、うまく想像がつかないと思うので、動物愛護団体「 The Clean Futures Fund(CFF)」が週800kgもの餌代の足しになればと募金目的で制作したドキュメンタリーも併せて見ていただければと思います。

ナレーションにもあるように、映像で見る限り、チェルノブイリの野犬は一見どこにでもいるふつうの犬に見えます(2:24〜)。

奇形もないし、ラブラドールとシェパードなどがいい具合に交わり合って、実に美しい毛並み。やせてはいますが、やせこけているということもなく、精悍そのものです。

餌もふつうにもらいにくるし、人間に襲いかかることもありません。

ただ不自然なのは老犬がまったくいないことで、CFFの2016年の推計では寿命はわずか1年から3年と見積もられていました。 飼い犬なら10年前後は生きられるんですが... 。

中型・大型犬は1〜2年で成犬ですので、大人になるかならないかのうちに死んでしまっていることになります。

動画では

内部被ばくとは関係なくて(放射能が体内に蓄積するまでには何年もかかるが、チェルノブイリの犬はその前に亡くなってしまう)、暖房もない過酷な自然環境のなかで風雪に晒されて死んでしまうのだ。

と説明されていますが、新たに公開となった論文を見る限り、まったく影響がないとも言い切れません。今後の研究が待たれます。

チェルノブイリのアマガエル、放射線濃度に応じて黒く進化している チェルノブイリ原子力発電所事故のエリアでは、黒く変色したアマガエルが発見されている。被曝に対抗するための独自の進化か。 https://www.gizmodo.jp/2022/10/chernobyl-tree-frogs-turn-black.html