SAF(持続可能な航空燃料)の原料となる廃食油が「ゴミが金になる」とすれば、「金のなる木」が生えているところがあるという。どんな木なのだろうか。インドネシアに向かった。

首都ジャカルタから車で約3時間。激しい渋滞を抜け、ジャワ島西部のバンテン州の海岸にたどり着いた。スマトラ島を望む遠浅のおだやかな海では、特産のノリを積んだカゴを漁師たちがゆっくりと引いていた。海岸沿いには南国らしいバナナやココナツ、パーム(アブラヤシ)の木が生い茂る。

日本から訪れていたベンチャー企業「P2X」取締役の宝沢賢寿さん(43)が、その林にある木を熱心に見つめていた。高さは10メートルほどで、手のひら大の深緑の葉を広げる。枝からぶら下がる6センチほどの実を観察した宝沢さんがつぶやく。「実がたくさんついている。これは良いかも」。地面に落ちたさやを開き、種子の数や大きさを確かめていた。

ポンガミアと呼ばれるこの木を探し、宝沢さんは数年前からタイ、インドネシアなど東南アジアを飛び回っている。種子に含まれる油分の量の差が大きいため、たっぷりと油分を含み多くの種子をつける「エリート株」を探しているのだ。

ポンガミアの名を知る人はインドネシアでも少ない。一部でアイアンツリーとよばれ、堅い材質を生かした舟や家具をつくる地域があるほか、沖縄などで防潮林として植えられているケースはある。ただ、商業目的で栽培されることはほぼなかった。ところが、いま「金のなる木」としてにわかに注目を集めている。SAFの原料になる可能性があるからだ。

マメ科のポンガミアは、さやのなかに親指より少し大きい茶色の種子が1〜3個入り、油分を豊富に含む。P2X社の計画では、1ヘクタールあたり約5トンの油がとれるという。

SAFで状況一変「ブルーオーシャン」

SAFの原料には、廃食油のほか、トウモロコシやサトウキビもなり得るが、「食べるものを燃料にしていいのか」という批判がある。そもそもSAFの原料として認められるには、CORSIAの認証を受けなければならないが、食料と競合する原料は評価が低くなる。加えて、EUは児童労働の問題などが指摘されるパーム油も制限している。

一方、ポンガミアの種子には毒性があるため、食べられない。種子は海を漂い、たどり着いた海岸に根を下ろすことも多い。塩害にも強く、荒れ地でも育つため、野菜などを育てる畑の転作も避けられる。

2017年に事業を始めたP2X社はタイとインドネシアに計4カ所の育苗場を持ち、ポンガミアの株の販売を手がけている。これまでは現地調査の委託などで収益を上げていたが、昨年初めてポンガミアの売買契約を結んだ。契約した国内外の2社はいずれもSAFの原料として栽培する計画だ。国内の石油元売り企業からも引き合いが来ているという。

社長の岡部威さん(41)は「事業開始当初は詐欺だと思われた。燃料にまつわる投資詐欺は少なくなく、疑いの目でみられた」と振り返る。ただ、ここ数年、SAFの市場が広がり始めたことで、状況は一変。いまポンガミアを商用に栽培する企業は米国などを除いて見当たらず、「ブルーオーシャン」といえる環境だ。

ゆくゆくは自前で搾油事業に乗り出すことも考えている。搾油後の実の搾りかすは家畜の飼料に、剪定(せんてい)した枝やさやは、石炭由来のコークスの代替となるバイオコークスに活用するアイデアもある。「いま来ている話がすべてまとまれば、年間500億円の売り上げも夢ではない」と期待する。

「金のなる木」開発競争に企業続々

こうした「非可食燃料」の栽培に、企業が続々と乗り出している。米カリフォルニアに本社を置くタービバは、ハワイなどでポンガミアの研究・栽培を手がけている。三菱商事と提携し、販売している。

食品メーカーのJ−オイルミルズと出光興産は、豪クイーンズランド州でポンガミアの実証栽培を始める計画だ。バイオ燃料を手がけるレボインターナショナルはベトナムで、「ジャトロファ」と呼ばれる非可食植物を、2008年から試験栽培している。2028年度には本格的なバイオ燃料用油脂の生産のため、栽培面積を1万5000ヘクタールに広げる計画だ。

SAF市場の成長を見据え、「金のなる木」の開発競争も加速している。